乙女ゲームの世界でとある恋をしたのでイケメン全員落としてみせます

番外編【ホワイトデー】

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番外編【バレンタイン】のつづき。
時系列的にはリブロジ襲撃前くらいです


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「由羅さん、今日は皆が仕事で来れないらしいので、預かりました。」


 トキノワの事務所へ入ったとたん、サダネさんに渡されたのは大量の包み達。


「へ?私にですか?」
「はい。今日はホワイトデーですから。俺からのも入ってますよ」


 バレンタイン、ありがとうございました。と優しく微笑むサダネさんの言葉に納得する。
 そうか、今日ってホワイトデーだ。

 お返しであろう大量の包み達をデスクの上に置き、なんだか照れ臭くなる。

 私が皆にあげたものなんて、たいしたものではないのに、皆、律儀にお返しを用意してくれたなんて、逆に少し申し訳ないような…。

 不釣り合いなくらい豪華なのもあるし…!
 絶対これツジノカさんでしょ。

 嬉しいような、恥ずかしいような、だけど心がじわりと温かくなる。
 笑顔を浮かべて「ありがとうございます、サダネさん」とお礼を伝えた時だった。

 事務所の戸がカラカラ開かれて、時成さんが入ってきた。


「おはようございます時成様」
「おはようサダネ、由羅」


 いつものように胡散臭い笑みを浮かべる時成さんに挨拶を返すと、時成さんの視線が私のデスクの上に向いていることに気付いた。

 不思議そうに見つめている時成さんに、サダネさんが比較的小さな声で教えていた。


「今日はホワイトデーなので、トキノワの皆から由羅さんへのお返しです」

「ホワイトデー…」


 サダネさんの説明に、時成さんは怪訝そうに呟いた。
 やっぱりな。あの時成さんのことだ。ホワイトデーがなんなのかすら、わからないのだろう。

 半分呆れ気味に時成さんを見ていれば、なにかを納得したように時成さんは頷き、そして、その視線が私に向いた。

 パチリと視線が重なり、数秒間の謎の沈黙のあと、時成さんが口を開いた。


「私も返すべきかな?」


 予想外の言葉に「へ?」と思ったより大きな声が出た。
 え、ちょっ…いや、何こっちじっと見てるんですか時成さん。その発言はまずいですよ。
 ほら、サダネさんの視線がこちらを見てる!(由羅さん、時成様にもチョコあげたんですね)って目が言ってる!

 いや、違う。落ち着け私!そこがバレるのは別にいい!
 問題はその中身だ…!

 あの、でっかいハート型。いや、半月型だけど。もとはハート…!

 時成さんにあげたチョコだけが、皆とは違うってことがバレる方がやばい…!

 それだけは、絶対にバレたくない!


「…あ、あれは、本当ただの“お世話になってますチョコ”なのでっ!べ、別に、お返しは、大丈夫です!」


 とりあえず、これ以上時成さんに発言させるのはまずい。と

 両手をぶんぶんと左右に振って見せ、この話題を終わらせてくれと願う私の思いが、珍しく時成に通じたらしい。
 時成さんは少しだけ目を細めたあと、「では、そうしようか」とあっさり顔をそらした。

 本来の用事であったのだろうサダネさんと仕事の話を始めた時成さんを見て、ホッと安堵すると同時に、何故か胸がチクリと痛んだ。

 これで、いい。…はずなのだけど、
 なんだろう…なんだか、残念なような…。

 内心で(貰えば良かったな)と、小さく後悔する自分に、私は必死に気付かないふりをする。





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 それから数日後。

 バレンタインやホワイトデーなどすっかり忘れてしまったころ。

 仕事も終えた夕方、自室で本を読んでいる時だった。


「由羅」


 聞き慣れた声に顔を上げると、時成さんが立っていた。

 その手には、小さな箱。

 余計な装飾のないその上品な白い包みをみて、私は小さく首を傾げながら、持っていた本をしまう。

 時成さんは私の目の前まで来ると、静かに胡座をかき、白い包みを私の前にコトリと置いた。


「由羅がくれたもののお返しだよ」


 え…?“くれたもの”?とは??

 私、時成さんに何かあげたっけ?
 最近はなにもあげた覚えなんてないし、と考えて、頭に浮かんだのは
 数ヶ月前のバレンタインのチョコだった。

(え、まさか。)

 いや今更、そんな…だってホワイトデー、とっくに過ぎてますけど。それに…


「……私、いらないって言いましたよね?」
「そうだね」


 さらりと肯定し、頷いた時成さんは何故か面白そうに笑みを浮かべていて、私は怪訝な視線を送る。


「だけど、私が渡したくなったんだよ」


 小さく首を傾げて告げた、時成さんのその一言に、ドキリと胸が跳ねる。

 この男は本当に、何故こういう事をさらりというのだろうか…。

 無意識か、わざとなのか、どちらにしても少しはこちらの気も考えてほしい…

 差し出されたその包みを、赤くなりそうになるのを必死に抑えながら、私は恐る恐る受け取った。


「開けてもいいですか?」


 返事の代わりに、にっこりと胡散臭い笑みを浮かべる時成さんから視線を包みに移す。

 僅かに震えてしまう指で包みを開けると――

 中には、綺麗なハート型のクッキーが入っていた。

 一見ただのシンプルなクッキーに見えるけど、真ん中に、切り取り線のような点線があって私は停止する。
 だって、この点線どおりにクッキーを割ったとして、現れるのは半月型のクッキーだ。


「……」


 うん、見覚えしかない。
 バレンタインの時、ハート型チョコを私が割って半月型チョコにしたときとまったく同じだ…。
 ……というか、なにこれ。

 何故点線入ってんの?
 え、どういうこと?線にそって割れということですか?


「まだ、割れてないだろう」


 混乱する私を見て、とても愉快そうに“まだ”を強調して、時成さんは笑う。


「一応、半月型にもできるように切り取り線をつけてもらったんだけど。今回は、どうするべきだろうね?」


 わざとらしく、子憎たらしく、首をかしげて時成さんは聞いてくる。
 …本当、いい性格してますね。


「割ったのは不可抗力です」
「ほう?」
「不可抗力です」
「なるほど」


 時成さんの笑みが深くなり、目が細くなる。


「なら、これはハートのまま受け取ってくれるのかな?」


 ゆっくりと顔を近づけそう聞いてきた時成さんを少し睨む。
 ドキドキなんて、しない。してやるもんか。これは気のせいだ。


「……そのまま、もらいます」

「あげたからには由羅のものだ。好きにしていいよ」

「だから、割らずにいただきますよ!」


 慎重にクッキーを持つ自分に抗えない。
 割らないようにしている自分が悔しい。

 僅かに震える手で、覚悟を決めて、ぱきりと一口それをかじった。

 ほんのり甘くて、優しい味がする。

 美味しい、ともう一度口にしようとしたその瞬間。


「由羅」


 呼ばれた名前に顔を上げると、すぐ近く。近距離に時成さんのニッコリとした笑顔があった。


「私のハートを、全部ひとりで食べるつもりなのかな?」

「え?」


 私のハートって…。なにそれ。どういう意味ですか。というか、距離、近いんですが。

 大混乱に陥りそうな次の瞬間。

 ぐいっと手首を掴まれたかとおもえば、あろうことか時成さんはクッキーをかじった。
 私がかじったその反対側を…

 点線入りのハートのクッキーに二つの噛み跡ができた。


「甘いね」

「な、な、なにしてるんですか!?」

「今回も分け合うべきじゃないかな?」

「は、はい?わ、わけがわかりません!」


 まったく意味がわからない。
 今回もってなに!?いや確かに、ホワイトデーはバレンタインのお返しをする日だけれど、
 確かにバレンタインの時は半分こにして食べたけど…!
 バレンタインデーにやったことを同じようにすればいいというわけではなくて…


「じゃあ、これは?」


 そう言って、時成さんは自らの頬をとんとんと指で叩いて見せた。


「……はい?」

「ホワイトデーとは、前回のお返しなんだろう?」


 いや、だからね時成さん。

 それはまさか、バレンタインのとき時成さんが私の頬を舐めたように、私も時成さんの頬を舐めろということですか?
 普通に無理ですけど。というかやっぱり時成さんのホワイトデーに対する知識なにかおかしい!


「む、無理です!」

「それは残念だね」


 近かった距離を離し、全然残念そうじゃなさそうな時成さんは私をじっと見る。


「いずれ自分から来る日を待つとしよう」


 …はい?

 その言葉を、頭が理解するよりも先に、私の顔は真っ赤に染まっていて

 そんな私を、時成さんは面白そうに、いつもの胡散臭い笑みで見つめていた。


 来年は、絶対に、時成さんにバレンタインチョコをあげない…!と、私は心の中で叫んだ。




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