許婚はヤンデレ御曹司でした。
番外編 財前伊織の話~霧生詩織を好きない理由~伊織side
財前。
生まれ落ちた時からはその名前に伊織は苦しめられてきた。
物心がついた時から彼は財前財閥を継ぐ者として、周りから御曹司として扱われてきた。 すべてが悪いことばかりではなかったが、伊織は本当の自分はどこにもいないような気がしていた。
両親ですら、財閥の跡取りとしてしか自分を見ていないことに彼は早い段階で勘づいていた。
孤独感と疎外感がいつしか彼の心を支配していった。
彼は心の奥底で誰かに本当の自分を見てほしいという欲求が膨れ上がっていた。だが、それを表に出すことはなかった。
皆が求める財前伊織として、爽やかで優しく優秀な良い子で居続けた。
財政界の集まりや父親の付き添いで財政界の子息令嬢に会えば、媚びたような目や期待の眼差しを向けられる。
「伊織様は何がお好きなんですか?」
「好きなのは、読書かな」
「そのお年で本を読まれるのですか? 素晴らしいですわ」
「さすが、伊織様」
周りの令嬢から賞賛の声が聞こえてくるが、それは自分の見た目と家柄、地位があるからこそ向けられるものだ。
伊織はそう考えて、自分自身に対しての評価でないことをわかっていた。
あの財前財閥の御曹司というだけで、誰も彼を見る人間は皆無だった。
伊織自身もそれが自分の生きる道であると覚悟し、偽りの仮面を被っていた。
だが、ある令嬢と出会い、彼の考えは砕け散った。
父が「重要な取引先のお嬢様」という話を伊織はされた。
伊織は他の令嬢と変わらないからいつも通り”財前伊織”として接すればいいと考え、その令嬢と7歳の頃、顔を合わせた。
第一印象はどこにでもいそうな令嬢だった。
彼女よりかわいい令嬢はたくさんおり、彼女はよく言えば素朴で悪く言えば地味だった。
だが、彼女は財前財閥と同格の日本三大財閥に入る霧生財閥のご令嬢だった。他の令嬢とは違い、重要人物である。
伊織が財前財閥の跡取りではなかったら、彼女とは出会うこともなかっただろう。
それほどの重要人物であったが、彼女もまた財前伊織として接すれば、勝手に好いてくれるだろうと高を括っていた。
「初めまして。僕は財前伊織。よろしくね」
伊織が笑顔を向けながら挨拶したが、彼女は顔色を変えず挨拶を始めた。
「よろしくお願いします。財前伊織様。初めまして。私、霧生詩織と申します。お父様ともこれから良い関係を築けることを願っています」
詩織はスカートを掴んで、典型的な令嬢のような挨拶をした。
だが、伊織はあまりに冷静な彼女の挨拶で驚いた。
「他の令嬢とは少し違う気がする。やはり、大財閥の令嬢は僕のような人間には慣れているのだろうか」と伊織は思ったが、彼女はそんな伊織をよそに口を開いた。
「伊織様。父たちが会談中は別に無理しなくていいので。私も、あなたも、このような上辺だけの会話には飽きているでしょうから。お互いに好きなことをしましょう」
伊織は彼女をどこにでもいる普通の令嬢だと思っていたことが見当違いだったとすぐ思い直した。
彼女は聡明でちゃんとした自分を持っている気高い女性だと思わされた。
彼女は鞄の中から絵本を取り出し、彼女は庭先のベンチに座って読み始めた。
それが伊織と詩織の出会いだった。
伊織は詩織に会うたびに彼女と過ごす時間が楽しみで、彼女が読んでいる絵本と同じものを持参し、彼女の好みを調べては贈り物をした。
彼女と過ごしているうちに彼は思ったより詩織は内弁慶なところがあり、女子相手には強く出られないところがあった。
だが、自分には素の自分を見せてくれているようだった。
それが伊織はとてつもなく嬉しくて、そして彼女に突っかかて来る女子生徒たちを懐柔や注意をして彼女の学校での脅威を取り除いていった。
普段の彼女は口数が少ないが、たまに見せる毒舌がたまらなく愛おしかった。
10歳の詩織の誕生日の前日、父に伊織は相談した。
「詩織嬢と、婚約を結びたいのです。いけないでしょうか」
「お前がそのようなことをいうなんて、珍しいな」
「詩織嬢となら、僕はもっと財前家も霧生家も繁栄させることができると思っています」
「最初からそのつもりだ。10歳になれば、お前にも伝えるつもりだった。お前も彼女も嫌がるタイプではないからな」
伊織は最初からそのつもりだったと言葉を聞いて、やはり彼は財前家の跡取りとして期待され、それから外れることは許されないと悟った。
そして、彼女と出会わされたことも財前伊織だからだ。
もし、彼女が他の令嬢と変わらなかったとしても伊織は婚約を結ぶことに反抗はしなかった。
それが与えられた役割だからだ。
大財閥の御曹司に生まれたその瞬間から彼は決められたレールの上を走り続けるしかない。
伊織は相手が詩織でよかったと心底思った。
「詩織嬢はそのことはもう知らされているのですか?」
「おそらく、出会う前から伝えられているだろうな。霧生さんは合理的な方だし、娘にもその覚悟を持たせているだろう」
「そうなのですね。詩織嬢は嫌ではないのでしょうか」
「少なくとも、嫌なら学校でお前と一緒にいないだろう。それに伊織を嫌がる女子の方が少ないだろう」
伊織の父は伊織がどこに行っても人を惹きつけていることを知っていた。特に異性に非常にモテていることはこれからの財閥運営にも有利だと考えていた。
だが、伊織自身は詩織は容姿で人を見るタイプではないことを理解していた。
彼女は大財閥の家系であり、伊織のような家柄と結婚することは珍しいことではなかった。
詩織が伊織のような男を特別視することはないと感じていた。
心の中では嫌われている可能性があり、不安を抱いていた。
伊織はあの日好きだと自覚してから彼女から好かれるように努力し続けた。
贈り物をし、彼女を守り続けることで、少しでも彼女へ自分の思いが伝わっていればいいと思っていた。
婚約を双方で合意した話し合いの際は彼女は少し、寂しそうな目をしていた。
「大丈夫? 詩織」
「うん。伊織くんは、いいの? 私なんかと結婚することになって」
「詩織だからいいんだよ。僕は詩織が好きだから」
初めて詩織に想いを伝えたが、彼女は寂しそうに笑った。
「ありがとう。お世辞でも嬉しいな」
彼女には気持ちが何も伝わっていなかった。
家同士の繋がりを維持するために伊織が詩織へ愛を向けていると彼女は思っていた。
それでも、伊織は詩織が自分のものであると周りに知らしめる関係になれて、笑みが止まらなかった。
12歳の詩織の誕生日。
伊織はまた詩織の家の庭で彼女と過ごしていた。
またお世辞だと勘違いされるかもしれないと思ったが、伊織は彼女に自分の想いを伝えたかった。
「詩織。僕のお嫁さんになってください」
広い庭には伊織と詩織しかいなかった。
伊織は彼女の前に跪いて、シルバーリングが入った箱を開けてプロポーズの言葉を口にした。
その指輪は以前、彼女が伊織の部屋へ泊まった時に彼女が寝ている間に指輪のサイズをひそかに測っていたのだ。
指輪は高級なものではなかったが、伊織がお小遣いを溜めて買った初めての指輪だった。
「嫌でも結婚するんだよね。なら、そんなこと言わなくていいよ」
詩織の返しはとても冷たいものだったが、彼は笑顔を絶やさなかった。
「僕は親が決めたから、家が決めたから君と結婚するわけじゃない。僕が君を愛しているから、結婚するんだ。だから、君に伝えたかっただけだよ」
伊織は寂しそうに笑った。
だが、少しだけ詩織の表情が曇っている姿を見て、彼の中で何かがはじけた。
「僕にだけ見せてくれた表情。彼女のすべてを見たい。誰にも渡したくない」と心の中で、重苦しい愛が芽生えた。
財前伊織が詩織への執着の感情が生まれた瞬間だった。
生まれ落ちた時からはその名前に伊織は苦しめられてきた。
物心がついた時から彼は財前財閥を継ぐ者として、周りから御曹司として扱われてきた。 すべてが悪いことばかりではなかったが、伊織は本当の自分はどこにもいないような気がしていた。
両親ですら、財閥の跡取りとしてしか自分を見ていないことに彼は早い段階で勘づいていた。
孤独感と疎外感がいつしか彼の心を支配していった。
彼は心の奥底で誰かに本当の自分を見てほしいという欲求が膨れ上がっていた。だが、それを表に出すことはなかった。
皆が求める財前伊織として、爽やかで優しく優秀な良い子で居続けた。
財政界の集まりや父親の付き添いで財政界の子息令嬢に会えば、媚びたような目や期待の眼差しを向けられる。
「伊織様は何がお好きなんですか?」
「好きなのは、読書かな」
「そのお年で本を読まれるのですか? 素晴らしいですわ」
「さすが、伊織様」
周りの令嬢から賞賛の声が聞こえてくるが、それは自分の見た目と家柄、地位があるからこそ向けられるものだ。
伊織はそう考えて、自分自身に対しての評価でないことをわかっていた。
あの財前財閥の御曹司というだけで、誰も彼を見る人間は皆無だった。
伊織自身もそれが自分の生きる道であると覚悟し、偽りの仮面を被っていた。
だが、ある令嬢と出会い、彼の考えは砕け散った。
父が「重要な取引先のお嬢様」という話を伊織はされた。
伊織は他の令嬢と変わらないからいつも通り”財前伊織”として接すればいいと考え、その令嬢と7歳の頃、顔を合わせた。
第一印象はどこにでもいそうな令嬢だった。
彼女よりかわいい令嬢はたくさんおり、彼女はよく言えば素朴で悪く言えば地味だった。
だが、彼女は財前財閥と同格の日本三大財閥に入る霧生財閥のご令嬢だった。他の令嬢とは違い、重要人物である。
伊織が財前財閥の跡取りではなかったら、彼女とは出会うこともなかっただろう。
それほどの重要人物であったが、彼女もまた財前伊織として接すれば、勝手に好いてくれるだろうと高を括っていた。
「初めまして。僕は財前伊織。よろしくね」
伊織が笑顔を向けながら挨拶したが、彼女は顔色を変えず挨拶を始めた。
「よろしくお願いします。財前伊織様。初めまして。私、霧生詩織と申します。お父様ともこれから良い関係を築けることを願っています」
詩織はスカートを掴んで、典型的な令嬢のような挨拶をした。
だが、伊織はあまりに冷静な彼女の挨拶で驚いた。
「他の令嬢とは少し違う気がする。やはり、大財閥の令嬢は僕のような人間には慣れているのだろうか」と伊織は思ったが、彼女はそんな伊織をよそに口を開いた。
「伊織様。父たちが会談中は別に無理しなくていいので。私も、あなたも、このような上辺だけの会話には飽きているでしょうから。お互いに好きなことをしましょう」
伊織は彼女をどこにでもいる普通の令嬢だと思っていたことが見当違いだったとすぐ思い直した。
彼女は聡明でちゃんとした自分を持っている気高い女性だと思わされた。
彼女は鞄の中から絵本を取り出し、彼女は庭先のベンチに座って読み始めた。
それが伊織と詩織の出会いだった。
伊織は詩織に会うたびに彼女と過ごす時間が楽しみで、彼女が読んでいる絵本と同じものを持参し、彼女の好みを調べては贈り物をした。
彼女と過ごしているうちに彼は思ったより詩織は内弁慶なところがあり、女子相手には強く出られないところがあった。
だが、自分には素の自分を見せてくれているようだった。
それが伊織はとてつもなく嬉しくて、そして彼女に突っかかて来る女子生徒たちを懐柔や注意をして彼女の学校での脅威を取り除いていった。
普段の彼女は口数が少ないが、たまに見せる毒舌がたまらなく愛おしかった。
10歳の詩織の誕生日の前日、父に伊織は相談した。
「詩織嬢と、婚約を結びたいのです。いけないでしょうか」
「お前がそのようなことをいうなんて、珍しいな」
「詩織嬢となら、僕はもっと財前家も霧生家も繁栄させることができると思っています」
「最初からそのつもりだ。10歳になれば、お前にも伝えるつもりだった。お前も彼女も嫌がるタイプではないからな」
伊織は最初からそのつもりだったと言葉を聞いて、やはり彼は財前家の跡取りとして期待され、それから外れることは許されないと悟った。
そして、彼女と出会わされたことも財前伊織だからだ。
もし、彼女が他の令嬢と変わらなかったとしても伊織は婚約を結ぶことに反抗はしなかった。
それが与えられた役割だからだ。
大財閥の御曹司に生まれたその瞬間から彼は決められたレールの上を走り続けるしかない。
伊織は相手が詩織でよかったと心底思った。
「詩織嬢はそのことはもう知らされているのですか?」
「おそらく、出会う前から伝えられているだろうな。霧生さんは合理的な方だし、娘にもその覚悟を持たせているだろう」
「そうなのですね。詩織嬢は嫌ではないのでしょうか」
「少なくとも、嫌なら学校でお前と一緒にいないだろう。それに伊織を嫌がる女子の方が少ないだろう」
伊織の父は伊織がどこに行っても人を惹きつけていることを知っていた。特に異性に非常にモテていることはこれからの財閥運営にも有利だと考えていた。
だが、伊織自身は詩織は容姿で人を見るタイプではないことを理解していた。
彼女は大財閥の家系であり、伊織のような家柄と結婚することは珍しいことではなかった。
詩織が伊織のような男を特別視することはないと感じていた。
心の中では嫌われている可能性があり、不安を抱いていた。
伊織はあの日好きだと自覚してから彼女から好かれるように努力し続けた。
贈り物をし、彼女を守り続けることで、少しでも彼女へ自分の思いが伝わっていればいいと思っていた。
婚約を双方で合意した話し合いの際は彼女は少し、寂しそうな目をしていた。
「大丈夫? 詩織」
「うん。伊織くんは、いいの? 私なんかと結婚することになって」
「詩織だからいいんだよ。僕は詩織が好きだから」
初めて詩織に想いを伝えたが、彼女は寂しそうに笑った。
「ありがとう。お世辞でも嬉しいな」
彼女には気持ちが何も伝わっていなかった。
家同士の繋がりを維持するために伊織が詩織へ愛を向けていると彼女は思っていた。
それでも、伊織は詩織が自分のものであると周りに知らしめる関係になれて、笑みが止まらなかった。
12歳の詩織の誕生日。
伊織はまた詩織の家の庭で彼女と過ごしていた。
またお世辞だと勘違いされるかもしれないと思ったが、伊織は彼女に自分の想いを伝えたかった。
「詩織。僕のお嫁さんになってください」
広い庭には伊織と詩織しかいなかった。
伊織は彼女の前に跪いて、シルバーリングが入った箱を開けてプロポーズの言葉を口にした。
その指輪は以前、彼女が伊織の部屋へ泊まった時に彼女が寝ている間に指輪のサイズをひそかに測っていたのだ。
指輪は高級なものではなかったが、伊織がお小遣いを溜めて買った初めての指輪だった。
「嫌でも結婚するんだよね。なら、そんなこと言わなくていいよ」
詩織の返しはとても冷たいものだったが、彼は笑顔を絶やさなかった。
「僕は親が決めたから、家が決めたから君と結婚するわけじゃない。僕が君を愛しているから、結婚するんだ。だから、君に伝えたかっただけだよ」
伊織は寂しそうに笑った。
だが、少しだけ詩織の表情が曇っている姿を見て、彼の中で何かがはじけた。
「僕にだけ見せてくれた表情。彼女のすべてを見たい。誰にも渡したくない」と心の中で、重苦しい愛が芽生えた。
財前伊織が詩織への執着の感情が生まれた瞬間だった。