最強男子はあの子に甘い
 乱闘騒ぎの中心にいた永田圭音くんである。
 彼は頬杖をついて窓の外を見つめていた。
 
「あ……」

 と、湯川くんと声がかさなったから思わず顔を見合わせ、永田くんの存在をもう一度確認するように前を向く。
 永田くんの周りの席がきれいに空いていて、私と湯川くんは再び顔を見合わせて苦笑した。
 見事にクラスメイトに避けられている様子である。
 無理もない。彗くんにはあっさり負けていたけれど、彼は強かったように思う。

 私が永田くんの隣の席を、湯川くんは永田くんの前の席を選んだ。
 それぞれ椅子を引きながら、「ここ、いいですか?」と二人で声を合わせるように永田くんに訊ねる。

「好きにしろよ」

 永田くんは私たちを見ずに素っ気なく答えた。
 けれどすぐに「……ん?」と小さくこぼすと、ものすごい勢いでこちらを振り向き私を見る。

「はあ!?女!?榎本紗宇ってもしかしてお前!?」

 大きな声で驚かれたかと思えば、永田くんは私のフルネームを室内に響き渡らせた。
 一斉に教室中の視線が集まり、私の自己紹介はこのクラスでは不要そうである。
 控えめに頭を軽く下げて苦笑する私をじいっと見つめて、永田くんは少し考えたあと何か決めたように何度か頷いた。

「俺と付き合う?」
「はい?」

 出会って秒。
 突拍子もない提案に私は思わず眉を寄せて聞き返す。
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