相談室のきみと、秘密の時間
「高遠さんなら、絶対に大丈夫」

「村越さん」

「何?」

「私のこと、名前で呼んでくれた。でも、彩葉がいいです」

「分かった、彩葉さん」

「もう一つお願いがあります。あの海での話の続きです。村越さんが私にまだ話せないでいることを全部教えてください」

「このことが終わったらきっと話す」

今度は私から村越さんを抱きしめた。

村越さんも何も言わずに私の背に手を回す。

伝えたい気持ちは沢山あったのに、この沈黙の中で全ての言葉は無意味だった。

ただただ、深々と降り積もっていくこの気持ちを私は全身で抱きしめていた。

ふと窓を見ると、はらはらと雪が降り始めていた。それは初雪だった。

田舎の雪は東京の雪とは全然違う。

東京の雪は水分が多くて積もることはほとんどないし数日のうちに溶けてなくなってしまう。

ここで降る雪は真逆で、細かな粒子のように繊細で一度降り出してしまえばいつまでも降りやむこともなく、見渡す限りに降り積もっていく。

私はここでいいから。東京じゃなくていいから、ここで村越さんと一緒に生きていきたい。

「雪が降ってるね」

「これから一緒に雪合戦でもしますか? 雪を純粋に楽しめるのは今のうちだけですからね」

「すぐに雪かき合戦になっちゃうからな」

「じゃあ雪かき合戦も一緒にしましょう」

「君じゃ弱過ぎて相手にならない」

「不戦勝ですか? 何事も試してみなきゃ分からないですよ」

そうだねえ、そうかもしれないと妙に確信を持った声で村越さんは応えた。

「さあ、最後のステージへ進もう」と村越さんが言ったので、
「勿論です」と私は応えた。
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