【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「たしかに、ファビアン公爵家との結婚はウィンブル伯爵家にとってまたとない縁でしょう。しかし、我がグラシアン侯爵家とて負けてはいません。僕はなんとしてもラナ嬢と結婚をさせていただきたいんです」

(え?)


 鼓動の音が一気に加速する。
 アンベール様、そんなことまで言って大丈夫なんだろうか? もしも作戦が上手くいってファビアン公爵との結婚話が流れたら、本当に私と結婚する羽目になってしまうのでは? ……いや、私はそうなったら嬉しいけど。さすがにそんなことまでお願いできないし。


「どうか、正式に婚約を結んでしまう前に、僕との結婚についてご一考いただきたいんです」

「……たしかに一考する価値はありそうですね」


 と、お父様が返事をする。私は思わず顔を上げた。


「先方には事情を話した上で、少しだけ様子を見ましょう。現時点ではなんの約束もできませんが」

「それで構いません。本当に、ありがとうございます」


 お父様に頭を下げるアンベール様を見つめながら、私は唇をほころばせた。



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