御曹司は優しい 音色に溶かされる
ドアを開けて目の前にいる人を見て、
ゆりえは唖然とした。

「千隼…さん」

「リー」

千隼も言葉が続かない。

ゆりえは足に根が生えたようになって、
身動きもできない。

息を止めていたみたいだ。

はーっと大きく息を吐き出して、
やっと言葉を紡ぐ

「なぜ、どうして今なの。
会いたくなかった。何も聞きたくない。
帰ってください。もう私達他人なんだから。
ほっといてくれたらいいのに…」

泣きそうな顔で言うゆりえに千隼は

「俺たちは他人じゃない。リーはまだ
俺の妻だよ。
リーを手放すつもりはないよ」

相変わらず、セクシーな低音ボイスで訳の
わからないことを話す千隼に、ゆりえは
あきれてものが言えない。

「リーがサインした離婚届は破って捨てた。
だからリーは今でもまだ西條ゆりえだよ」

二年まえより少し顔の輪郭がシャープに
なった気がするが、相変わらず憎らしい
ほど美しい男だ。

目つきが鋭くなる時は怖いと思わせる
ほどの冷気を宿す顔だが、ゆりえに
対してはいつも蕩けるような
優しい顔つきになる。

そんなところも変わってないってそんなこと
思っている場合じゃない。
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