The previous night of the world revolution4~I.D.~
「あ?お前なんか見覚え…。…あぁルナニアじゃないですか」

ルレイア殿は、俺の姿を見るなりそう言った。

「え?あ、いや…へ?る…あの、ルアリスです…」

俺は戸惑いながら、何とか答えた。

本当なら、ルレイア殿の生存が分かったのだから、諸手を上げて喜ぶべきだった。

それなのに、俺はあまりの衝撃に、喜ぶことも出来なかった。

ルレイア殿は、人が変わったような姿をしていた。

俺の知るルレイア殿は、いつでも真っ黒でゴシックな服を着て。

顔にはばっちりとメイクを施し。

オリエンタルな香水の香りを漂わせ。

そして、何より…あの強烈なルレイア・フェロモンを、ぷんぷんと撒き散らしている。

悪魔より悪魔、死神より死神…それがルレイア・ティシェリーという人だった。

それなのに、今、この目の前にいる人は誰だ。

化粧もしてないし白い服着てるし、何よりフェロモンがちっとも出ていない。

ルレイア殿が…こんな「普通の」格好をしているなんて…。これはただ事ではない。

そもそもこの人は、本当にルレイア殿なのか?

それぐらい、目の前の光景が信じられなかった。

でも、いつも通り俺の名前を間違えたし…。

これでもし目の前のルレイア殿が、俺の顔を見て「こんにちは、ようこそいらっしゃいました。ルアリスさん」なんて言ったら。

俺は間違いなく、ルレイア殿は完全に洗脳され、別人になってしまったのだと判断していたことだろう。

あるいは、ルレイア殿の生き別れた双子の弟だ、なんてアニメみたいなことを本気で考えていただろう。

しかし。

「あぁルアリス…。箱庭帝国で革命なんてアホなことをした後、最近生意気にも結婚して、無事脱童貞してちょっと女を知った気になってるルアリスですか。久し振りですね。そろそろ三人くらいは愛人出来ました?」

間違いなくルレイア殿だ。

何より分かりやすい自己紹介に、俺は感激の涙が出そうになった。

良かった、ルレイア殿…生きてる。

…あと、余計なお世話です。

「愛人なんていませんよ…」

俺はセトナ様一人で充分です。勿体ないくらいです。

「そうですか。ってかあなた、何しに来たんです?」

「アシミムという人に会いに…。それより、ルレイア殿…!一体どうしてそんな格好を?ルルシー殿は…」

「…」

ルレイア殿は、一瞬だけ後ろをちらりと一瞥し。

俺の身体を壁に押し付け、そして口を片手で塞ぎ。

もう片方の手で、自分の口許に人差し指を立て、しー、と合図した。

「…!」

その仕草と、そしてアイコンタクトで。

ルレイア殿が、何かの目的の為にここにいるのだと分かった。

俺が小さく頷くと、ルレイア殿はすぐに、パッと俺から離れた。

次の瞬間、後ろから背の高い青年が現れた。
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