(二)この世界ごと愛したい
この力を失くした私。
王族として姫としての立場も捨ててしまい、戦にも出ることがない私。
そんな私を側に置くメリット。
そんなものがあるとは思えない。
「城から出してエゼルタに置いて、それだけでいいと思ってた。」
「うん、大人しく置かれないけどね。」
「だけど今は確かに、それだけじゃ足りない気もする。」
「…もうすぐ山抜けるかなー。」
いらんことを考えさせてしまったな。
そんな未来にはどうせならない。私はシオンの側にずっと置かれるような人生は望まない。
「…もうこの辺りで大丈夫です。」
「あ、そう?」
シオンがそう言うので、私はここでようやく地上に降りることが出来ました。
…マジで疲れた。
もうこのまま寝てしまいたい衝動に駆られるが、シオンのお家をクロに覚えてもらわなきゃ。
「…何あのお屋敷。」
「自宅です。」
山へ降り立ち、シオンの後ろを追いかける様に少し木々の間を歩くと。
山の麓に立派なお屋敷がありました。
それはもう、由緒正しきって感じの荘厳なお屋敷。
「すっご。」
「…貴女城に住んでたでしょ。」
「城は城だし。こんな大きなお家見たことない。」
平屋に近いので高さこそないが、敷地の広さが異常だ。
なんだあの庭園。しかも別のお庭には訓練場とも思える広い空き地がある。
「た、楽しそうっ…!」
「嫁げば?」
私はもう聞こえないフリ。
指笛でクロを再度呼び付けて、この場所を覚えてもらおうと動く。
「クロー、今日は沢山頭使わせてごめんね。ここも覚えられる?」
「ピー。」
私の腕からシオンのお家上空へ。
軽やかに飛び立つクロを見つめて、私もこんなにスムーズに飛びたいと思った。
シオンとの空中散歩は、クロみたいに華麗なものではなく。ガタガタゆらゆらと危うい散歩だった。
「…じゃあ会議頑張ってねー。」
「…はい。」
「……。」
「…?」
この人って、本当に礼儀知らずだな。
「…無礼者。ありがとうは?」
「……。」
私がそう言うと、シオンはどうしてか珍しく笑った。
…ちゅ。
と、ここで触れるだけのキスが今度はちゃんと唇に落とされて。
「…ありがと。」
「な…っ。」
去り際に、ふわりと微笑んだその顔が。
いつも私に笑いかけてくれるトキと、どこか被るとこがあって…思わず見入った。
シオンがいなくなっても、私はしばらくそのまま動けなくて。
「…お別れの挨拶はなしか。無礼者め。」
不本意に赤く染められた顔。
こんな不満を呟くくらい、許されて然るべきだろう。