苦くも柔い恋


俯きながら言うと、不意に千晃の手が伸びてきて自分のそれと重なった。

ビクリと震えるも離すまいと握られ、顔を上げた。


「…やっと名前、呼んだな」

「…っ」


迂闊だった。

再会してからはずっと"君"と呼んで、あえて千晃の名前を呼ばないようにしていた。

許していると思われたくなかった、怒っていると分かって欲しかった。

そして千晃の言葉を聞く限り、彼はそれに気付いていたのだろう。

千晃の表情は、とても嬉しそうに綻んでいた。


「た、たまたまだよ…!」

「そうか」

「……」

「なあ和奏」

「…なに」

「何で今、俺の話を聞こうと思ってくれたんだ」

「…。それは…」


確かに言われればそうだ。

これまで和奏は頑なに千晃を受け入れようとしなかったし、話なんて聞くつもりもなかった。

少し前なら全部今更だと、苦し紛れの言い訳だと思っていただろう。

それが突然軟化すれば、不思議に思わない訳がない。


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