シュガーくんの秘密のボディーガードちゃん

 ――パリンッ。

 な、何!?

 突然、蜜生くんの背後の窓ガラスが大きな音を立てて割れ、何かが部屋に飛び込んできた。

「危ないっ……!」

「……!?」

 とっさに私は、その飛び込んでた何かを手に持っていた数学のワークで反射的に払いのける。

 我ながらナイス反射神経だ。

 カランと音を立てて、床に落ちたのは手のひらくらいの大きさの石。

「び、びっくりした〜。何これ石?どっから飛んできたの?危ないなぁ……」

 飛散防止ガラスなのか、部屋の中にはあまり破片が飛び散らなかったみたいでホッと胸をなで下ろした。

 そして、未だに驚いて固まっている蜜生くんに向かって、

「蜜生くん大丈夫?ガラスとか飛んでこなかった?」

 と、声をかける。

「……俺は大丈夫。それより、詩桜こそ大丈夫か?」

「私?私は大丈夫だよ、この分厚いワークのおかげで助かちゃった」

 ようやく状況を飲み込んだのか、焦った様子で私を見つめる蜜生くんの顔色は少し悪い。

 それもそのはず。

 下手をしたら、石が直接当たっていたかもしれないし、ガラスでケガをする可能性だってあったのだから、良い気分ではないだろう。

 いったい誰がこんなこと……。

 ふいに、石が飛んできた方向に視線を向けるも、中庭が見えるだけで人っ子一人見当たらなかった。

 偶然なのか、それともわざとなのか……。

 わざとだとすれば明らかに悪意がある行動だ。

 それに、蜜生くんを狙った誰かの犯行である可能性も捨てきれない。

「たぶん、俺、もしくは俺が使ってるパソコンあたりが壊れればラッキーってクチだろう。アメリカにいた時も似たようなことやられたことあったし……」

 蜜生くんがため息をつきながら、首を軽くすくめた。

「アメリカでも……!?」

「あぁ、日本はもう少し安全だと思ってたんだけどね。防弾ガラスにでも変えてもらわないとダメかもな」

 その言葉にズキンと胸が痛む。

 だって、さも当たり前だとでも言うような言い方だったから。

 こんなことが続いてたら、蜜生くんが中学生として普通に生活するなんて無理だよね……。

 きっとアメリカの時もそうだったに違いない。

 私の秘密も守ってくれてるんだし、ちゃんとその代わりに私が、彼を助けてあげないと!

「蜜生くん!私、蜜生くんが普通に生活できるようにボディーガード頑張るからね!」

 『蜜生くんに日本で普通の中学校生活を楽しんでほしい』

 今日の出来事は、私がそう思うようになったきっかけの日となった。
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