殺したいほど憎いのに、好きになりそう
転生しても学ばない
翔平くんの悩みとは、男子なら誰もが通る道。夢精のことだった。
インターネットも普及していない90年代じゃ、手軽に自分の悩みを検索することもできない。
だから身近な人に頼るしかなかった……。
俺は元男だから別に夢の中でどう扱われようと気にしないけど。
そのことで罪悪感を抱いているなら、元男の先輩として翔平くんを安心させてあげたい。
「翔平くん。夢のことなんて、お姉ちゃんは気にしないよ」
そう言って、彼の小さな肩に優しく触れてみる。
すると、翔平くんは瞳を輝かせて笑った。
「ほ、本当!? 藍お姉ちゃんは怒らないの?」
「うん、怒らないし翔平くんが毎晩見ちゃう夢も嫌じゃないよ。お兄ちゃんが怒ったのは知らないけど……」
「良かったぁ~ じゃあ、これからも夢の中で藍お姉ちゃんと遊んでも良いんだね?」
彼の問いに俺が「もちろん」と答えようとした瞬間、背後から人の気配を感じた。
「ダメに決まってんだろ! このクソガキがっ!」
俺が答えるよりも先に、背後にいた人物が怒鳴り声を上げる。
恐る恐る後ろを振り返ってみる俺と同じセーラー服を着た女の子、優子ちゃんだった。
没収されたブラジャーの件で職員室へ抗議に行っていたんだっけ。
「え、優子お姉ちゃんだよね……?」
「そんなことはどうでもいいんだよっ! 私の藍ちゃんで毎晩シコるなって言ってんの!?」
「し、シコる……? なにそれ?」
ヤバい、無知な翔平くんじゃ、言葉の意味もやり方も理解していない。
逆に”やおい”文化で育った優子ちゃんの方が、そういう知識は豊富なんだ。
「藍ちゃんが許しても、私は絶対許さないからね! どうせ今も藍ちゃんの優しさにつけこんで、胸を触ろうとしたり、お尻を撫でようとか思ってんでしょ!?」
「思ってないよ……なんで、僕が藍お姉ちゃんの身体を触ろうとするの?」
「男なんて皆そういう汚い生き物なんだよっ! シコるなら、道端に落ちてるエロ本でも探して勝手にやってな!」
「ひ、酷いよ。優子お姉ちゃん……僕はそんなこと考えてないのに。お兄ちゃんみたいに僕を怒るんだね! もう誰にも相談なんかしないよぉ~!」
いきなり現れた優子ちゃんから、激しく罵倒されたため、翔平くんは恐怖から泣き出してしまった。
そして俺に背中を向けると、そのまま走って逃げていく。
かわいそうに……。
「フンッ! これだから男は信用できないのよね! あんな風に泣いているけど、どうせ帰ってセーラー服姿の藍ちゃんを思い出しながら、シコりまくるのよ! 藍ちゃんの長くて艶のある美しい髪、甘い香り。華奢な体型なのに豊満なバスト。見た目しか、見てないクソガキね」
「……」
なんかそこまで詳しく表現できる優子ちゃんの方が危険だと思う。
~それから、一ヶ月後~
3学期が始まって以来、下校時間になると校門の辺りに不審者が現れるようになった。
スーツ姿の若い男性が3人ほど不気味な笑顔で立っている。学校関係者ではないようだ。
絶対に学校の中へ入らないから。
「学校、おつかれ~! これ、もらってくれるかな?」
そう言って、大量のコピー用紙を俺と優子ちゃんに渡して来た。
俺はなんのことだか分からないので、とりあえず受け取ってあげたが、隣りにいた優子ちゃんは「いりません」と冷たく断っていた。
「藍ちゃん、別にそんな”過去問”とか受け取らなくても良いのに……」
「へ? 過去問ってなんのこと?」
「この辺の塾がやってるセールスだよ。私は家庭教師がついてるからいらないもん。藍ちゃんだって学年で一番の成績だから、必要ないでしょ?」
「え……ごめん。言っている意味がわかんないんだけど」
「もう、藍ちゃんったらしっかりしてよ! 来週から学年末テストでしょ?」
ウソだろ!? この一か月間、家でも学校でも寝て食っての繰り返しで何もしてないよ!
「そ、その……学年末テストが悪い子たちはどうなるの?」
「内申点に響くでしょ。高校受験にも関わるから、大事な試験だよねぇ」
「へ、へぇ~ そうなんだぁ……」
数日で試験勉強とか、無理だよな。


