妖狐少女と御曹司~最強女子は御曹司くんのニセ彼女!?~
 授業が終わり、部活へと向かう生徒たちが楽しそうに廊下をかけていく。

 椅子や机を引いて掃除をする音。 

 凪季とは全く顔を合わせないまま終わる一日に、私の胸は締めつけられるように痛くなった。

 なんでだろう。

 凪季と出会う前は当たり前だったはずの日常なのに。

 ずっと望んでいたはずの「普通」の日常なのに。

 凪季、今何してるかな?

 怖い目に合ってないかな。

 危険な目に合ってないかな。
 
 少しは寂しいって……思ってくれてる?

 そんなことばかりを考えてしまう。

 掃除当番を終えた私は、静けさに包まれた放課後の学校を歩きながらそんなことをぼんやりと考えていた。

 夕焼けのオレンジ色が廊下の床をじんわりと染め、長い影を落とす。

 私が廊下に自分の足音が響くのをぼんやりと聞いていると、ふとその足音に新たな足音が加わった。

「朱里ちゃん」

 声をかけられ、ハッとして振り返る。

 もしかして――。

 淡い期待を抱いたけれど、後ろから走ってきたのは涼間先輩だった。

 そっか。そうだよね。

 凪季が私に声なんてかけるわけないんだから。

 ホッとしたような、寂しいような複雑な気持ち。

 私はとっさに笑顔を作ると、先輩にぺこりと頭を下げた。

「涼間先輩、久しぶりです。今、帰るところですか?」

「いや、今日は生徒会の会議があるからまだ帰れないんだ」

 困ったように笑う涼間先輩。

「そうなんですね」

 生徒会の会議。

 ってことは、凪季も一緒なんだよね。

 そんなことを考えると、胸がズキンと痛んだ。

 涼間先輩は辺りをキョロキョロと見回し、私に尋ねてくる。

「それより、凪季のこと見なかったかな。もうすぐ会議なのにどこにもいないから、朱里ちゃんのところかなって思ったんだけど」

 凪季がいない?

 おかしいな。

 凪季は真面目な性格だし、いつも待ち合わせの時間にもきっちり現れるのに。

 私は首を横に振った。

「いえ……私はもう、彼女役をクビになってしまったので……」

 私が無理やり笑顔を作ると、涼間先輩が不思議そうな顔をする。

「彼女役? クビ? 凪季は自分がフラれたって言ってたけど」

「えっ?」

 先輩の言葉に思わず聞き返す。

 先輩、何言ってるの?
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