求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛
一つのドームに案内されて靴を脱ぐ。
ドームの中に入ればとても暖かく、床にはふわふわの絨毯が敷かれていた。

「コートをお預かりします。」
男性スタッフが何食わぬ顔で私に手を差し出すから、ビックっと怯えながら繋いでいた手を解いて、急ぎコートとマフラーを脱ぐ。

するとそれを紫音さんが受け取り、自分のコートと一緒に渡してくれる。
そんな些細な事でも気遣ってくれる彼は、やはりとても優しい人なんだと思う。

「ご注文がお決まりでしたら、そちらのタブレットをお使い下さい。それでは、どうぞごゆっくり。」
そう言って、去っていったスタッフに私は胸を撫で下ろす。

「うわぁ…凄く神秘的なとこですね。」
緊張を解いた私が中央に置かれたソファに歩き出すと、紫音さんも静かに後を着いて来る。
ソファに合わせて置かれたローテーブルには、キャンドルが灯され、ゆらゆらと揺らめいている。
遠慮気味にソファに座ると、彼もその隣に静かに座る。

言葉なんて交わさなくても、きっと彼は気付いていて、私がその場に馴染むまで、そっと近くに寄り添ってくれている。

ソファに座り空を見上げると、透明なテントの中から星空が見える。
「凄い…紫音さん、星空が見えます。」

私は興奮気味にそう言って、空に人差し指を向ければ、一緒になって微笑み空を見上げてくれる。

「本当だ…。こんなに星が見えるんだな。ちょっと照明消してみる?」
机に置いてあった照明のリモコンを取って私に渡してくれるから、嬉しくなってピッと押してみる。

シュッとドームの灯りが消えて、辺りが暗くなる。机の上のキャンドルの灯りのみ。

そして夜空には満天の星が輝いていた。

「凄いな…まるで天然のプラネタリウムみたいだ。」
紫音さんがそう言って天井を見上げる。
その言葉が妙にしっくり来て、

「本当だ…。」
と、私もソファの背もたれに身体を預けて、天井を見上げる。

しばらく時を忘れて星空を眺めていた。
まるでそこは、私と紫音さん2人だけの世界のようで、心ゆくまでその景色を堪能した。

「…お腹が空いて来ましたね。」
しばらくそうしていると、周りからの美味しい匂いに釣られてお腹も空いてくる。

「確かに。メニュー見てみるか?」
私がタブレットの使い方が分からなくて、あたふたすれば、その長い指を使ってページをめくってくれる。

「バーベキューみたいな海鮮でも肉でもいろいろ焼いて食べれるセットもある。それともハンバーグとかステーキもいろいろあるけどどれにする?」

彼はいつだって私に全ての主導権を握らせてくれる。

「バーベキュー…楽しそう。やってみたいです。」
私の一声で、
「じゃあ、海鮮か肉かどっちが良い?両方だったら単品を頼めば良いし、ああ、デザートも結構種類があるみたいだ。」
タブレットを器用に操作しながら、私を上手に導いてくれる。

「紫音さんは何か嫌いなものありますか?私は貝類が苦手なんですけど…他は大丈夫です。」

「俺はなんでも食べられるから、好きなの選んでいいよ。後、お酒が飲みたかったら飲んでくれて構わないから。」

「いえ…お酒は苦手なので…。」
と、首を横に振る。

「そうか。じゃあ、ソフトドリンクか何が頼もうか?」
全てにおいて紫音さんが上手に誘導してくれたから、迷わず注文を決める事が出来た。
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