求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛
待ち合わせ時刻10分前に、心奈の住むアパートの駐車場に到着する。

オートロックすらない、このアパートに住んでいる事に恐怖すら感じる。彼女の身に何かあったらと思うと、自分の事以上に怖くて、本当は今すぐ俺の元に連れて行きたいくらいだ。

前の会社を辞職した経緯や、男性恐怖症を発症した理由も、それと無く教えてくれたが、詳細が気になって、密かに興信所まで雇って調査を依頼した。

そのブラック企業の内情と、この国が未だ男社会から脱却出来ない現実を知る。

心奈は何も悪くない。
ただ、純粋に直向きに仕事に向き合っていただけだ。

未だのうのうと働いている教育係だった男のせいで、彼女の夢や希望が全て奪われてしまった。
右も左も分からない新人時代に、信頼していた先輩にセクハラを受け、勇気を振り絞って会社に助けを求めたのにも関わらず、彼女の過剰反応だと認められず、相手側を擁護する会社にも幻滅しただろう。

セクハラの内容も本当に卑劣で、同じ男として耐え難い内容だった。

報告書にはありとあらゆる目を覆いたくなるような、セクハラ行為が書かれていた。

仕事中に突然背後から抱きしめられた。
忘年会でしつこく言い寄られ、太ももを触られた。極め付けは、残業中に押し倒されて襲われそうになったという。

相手の男は既婚者で子供が生まれたばかりだったらしい。こんな最低な男が守られて、真面目に頑張っていた彼女が辞める羽目になるなんて…この会社ごとぶち壊してしまいたい。

何でもっと早く出会えていなかったんだろうと、悔しくて悔しくて…

病んでしまった彼女の心をどうにかして救い出したい。もう二度と怖い思いをさせないように、願わくば、俺のこの手で守りたい。

だけど、俺は彼女にとっては怖い存在の男に分類されるから、どう信頼を得れば良いのか分からない。手探り状態だ。

この2週間、俺からは決して触れない事を心に決めて、人畜無害な男だと思ってもらえるよう、信頼される存在になりたいと、根気よく寄り添ってきた。

徐々に笑顔が見られるようになり、彼女から触れてきてくれる事も増えて来た気がする。

だけど…触れたい気持ちを抑え込み、耐えに耐え抜いてやっとここまで築き上げた信頼関係が壊れる事を恐れ、もうこれ以上一歩も前に進めない状態だ。

焦りは禁物だ。時間をかけて彼女に寄り添わなければ。そう思う気持ちと…
どんどん綺麗になって行く彼女が、誰かに奪われるのではないかという焦る気持ちがひしめき合う。

自分にもっと自信を持って欲しいと、自分磨きを勧めたのは俺なのだが…。

彼女の美しさは俺だけが知っていれば良かったかも知れない。周りの男達の目が変わって来てる気がしてならない。
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