野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)
家来同士の喧嘩の末、とうとう御息所の乗り物は後ろの方へ追いやられてしまった。行列が来てもほとんど見えないような場所だった。
失礼な扱いを受けたことはもちろんお悔しい。しかしそれよりも、こそこそとやって来た乗り物の主が自分だと知られてしまったことの方が、御息所ははるかに恥ずかしくておつらかった。
乗り物はひどく壊れている。それを人に見られるのも嫌で、
<どうして来てしまったのだろう>
と後悔なさるけれど、今さらどうしようもない。
「見物はもうよいから、屋敷に戻りましょう」
そうおっしゃっても周りは大混雑で、乗り物を動かすことができない。行列が近づいてきたと誰かが叫んだ。御息所ははっとなさる。
<冷たいあの人だけれど、一目でよいから見たい>
と思ってしまわれるのだから、恋する心は弱い。
行列が通っていく。御息所の乗り物の前には、今日のために美しく飾った乗り物がたくさん並んでいる。馬に乗った源氏の君は、そのうちのいくつかに目を留めて微笑まれる。恋人を見つけられたらしい。
左大臣家の乗り物ははっきりと目立つから、いかにも真面目そうに、きりりとしたお顔で通りすぎていかれる。源氏の君のお供たちまでかしこまった態度をする。後ろの方でみすぼらしいことになっている御息所の乗り物には、ついにお気づきにならなかった。
<私は負けたのだ。こんなところまで出てきて、思い知らされてしまった>
目から涙がこぼれるのを、御息所は女房に気づかれまいとなさる。おつらいけれど、
<立派なお姿だった。ちらりとでも見ることができてよかった>
ともお思いになる。
失礼な扱いを受けたことはもちろんお悔しい。しかしそれよりも、こそこそとやって来た乗り物の主が自分だと知られてしまったことの方が、御息所ははるかに恥ずかしくておつらかった。
乗り物はひどく壊れている。それを人に見られるのも嫌で、
<どうして来てしまったのだろう>
と後悔なさるけれど、今さらどうしようもない。
「見物はもうよいから、屋敷に戻りましょう」
そうおっしゃっても周りは大混雑で、乗り物を動かすことができない。行列が近づいてきたと誰かが叫んだ。御息所ははっとなさる。
<冷たいあの人だけれど、一目でよいから見たい>
と思ってしまわれるのだから、恋する心は弱い。
行列が通っていく。御息所の乗り物の前には、今日のために美しく飾った乗り物がたくさん並んでいる。馬に乗った源氏の君は、そのうちのいくつかに目を留めて微笑まれる。恋人を見つけられたらしい。
左大臣家の乗り物ははっきりと目立つから、いかにも真面目そうに、きりりとしたお顔で通りすぎていかれる。源氏の君のお供たちまでかしこまった態度をする。後ろの方でみすぼらしいことになっている御息所の乗り物には、ついにお気づきにならなかった。
<私は負けたのだ。こんなところまで出てきて、思い知らされてしまった>
目から涙がこぼれるのを、御息所は女房に気づかれまいとなさる。おつらいけれど、
<立派なお姿だった。ちらりとでも見ることができてよかった>
ともお思いになる。