怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「そこまでだっ!!」

「!?」

 ギュッと閉じていた目を開けると、そこには木下の右手首を掴んだ優流がいた。

 なんで優流が……?と不思議に思っていると、木下は優流に向かって怒鳴り始めた。

「な、なんだお前!」

「見た顔だと思って引き返して来てみたら……本当に、懲りない人だ」

 どうやら優流は木下を見てわざわざ店まで戻って来てくれたらしい。走ったのか、彼の呼吸はとても荒くなっていた。

「は、離せよ! 俺は今、彼女と話してるんだ」

「話してる? 暴力を振るいかけたの間違いでしょう?」

 木下は優流の手を振り払おうとするものの、びくともしない。

「こ、この!!」

「おっと」

 木下は空いていた左手で優流に殴りかかろうとしたが、それも優流の手によって止められた。

「はっ、離せ、離せよ!!」

 両手の自由を奪われた木下はジタバタと身体を動かすものの、優流は何も言わず木下をただ睨みつけるばかり。その目には、静かな怒りが滲んでいた。

「お、お前……こんなことが許されると思って……!!」

「木下様。お話し中、恐れ入ります」

「は、うるさいなっ……あ」

 木下の振り向いた先には、大城店長と佐々木さんが立っていた。二人とも表情は穏やかそのものだが、木下ですら気圧されるような目に見えぬ威圧感をまとっている。

「他のお客様のご迷惑となりますので、場所を移動しましょうか。それから、これ以降のお話は、私共のほうでお伺いいたします」

 そう言って、店長は殺気立った笑みを木下に向けたのだった。


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