怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「偽の交際相手」という私たちの曖昧な関係は、いまだに続いている。二人で話し合った結果、この関係を続けていたほうが、お互いに都合が良いと判断したのだ。

 私は、身を守るために。

 優流は、見合い話を断るために。

 利用し合う関係と言ってしまえばそれまでだが、不満は特にない。とはいえ、優流への想いを自覚してからは、この関係がもし本物になったら……と考えている自分もいた。

 しかし、それが夢物語なのは、すでに分かりきっている。

 見合いを断るということは、きっと優流には結婚願望がないのだろう。優秀な彼のことだ。恋愛よりも仕事優先という価値観でもおかしくはない。

 きっかけがない限り、きっとこの関係が崩れることはない。その代わり、彼との仲が今以上に発展していくこともないだろう。

 最終的に自然消滅して円満に終わり……なのかしらね。

 毎回そう考えると、ちくりと胸が痛むのだった。

「……ねえ、御堂さん。やっぱり、暑くないですか?」

 マンションから二、三分歩いたぐらいだが、優流の顔には汗が流れていた。ハンカチで拭ってはいるものの、彼の頬は火照っているようにも見える。
< 54 / 120 >

この作品をシェア

pagetop