あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
「…初めてだったんだよ」
聞いた事に無いほどに冷たい声が、静寂の中に静かに落ちた。
「白雪の方から連絡がきたの、今日が初めてだった。気付いてた?」
「……」
「初めて会いたいって連絡きて馬鹿みたいに舞い上がってたのにコレだよ。…ほんと、アホらし」
くしゃりと髪を握る。その手は確かに震えていた。
「…分かった、もういいよ」
付き合わせてごめん。そう漣は吐き捨てた。
「…さっさと行きなよ」
漣は背を向け、ひらひらと手を振る。
去り際まで軽い男だった。
私はすぐに踵を返して部屋を出た。エントランス内でもう一度キャップとマスクをつけ、待たせていたタクシーへ乗り込んで帰宅する。
和泉さんへは別れましたと一言だけ連絡を入れた。
リビングに居た母に夕食は不要だと告げ、私は自室へ上がる。
ベッドに倒れ込み、しばらく突っ伏していた。何も考えたくなかった。これでようやく安心できるはずなのに、言いようのない虚しさだけがあって、涙すらも出なかった。
長い時間そうしていると、父の帰宅を告げる音が聞こえてきた。
もうそんな時間か。そう思って置き時計に目を向けると、その上にかけられたカレンダーに自然に目が移る。母が嬉しそうに買ってきた、私の写真のカレンダーだ。
何が楽しくて自宅の、しかも自室で自分の顔を壁にかけなければならないのかと悪態をついたのを思い出す。そしてそのカレンダーには、昔からの癖で過ぎた日付にバツを入れている。そのバツ印の隣。つまりは今日。
それは丁度、漣と出会って1年を迎える日だった。