恋人同盟〜モテる二人のこじらせ恋愛事情〜【書籍化】
めぐは弦とは仕事上の最低限のやり取りだけで、それ以外は『話しかけないでオーラ』を発して視線を合わせないようにしていた。
定時になると、そそくさと帰り支度をして席を立つ。

「それではお先に失礼いたします」

挨拶をして事務所を出ようとするめぐに、弦が声をかけた。

「めぐ、このあと飲みに行かないか?」
「いえ、行きません。それじゃあ」

短く答えて事務所を出るめぐの背中に、弦は小さくため息をつく。
改めて気持ちを打ち明けようとしても、今のめぐからは拒絶反応しか返ってこない。

(きっと俺が好きな人と上手くいくようにって気を遣ってるんだろうな。相手はめぐなのに)

やるせない気持ちを抱えて席に座り直すと、斜め向かいのデスクから環奈がジロリと睨んできた。

「氷室さん、それはあんまりじゃないですか?」
「え?なにが?」
「雪村さん、必死に氷室さんのことを忘れようとしてるんですよ?傷つけたのは氷室さんでしょう?それなのに、中途半端に声かけるなんて。雪村さんの気持ちをこれ以上かき乱さないでください」
「俺は、別に……」

めぐを振った訳じゃないと言おうとして踏みとどまる。
恋人同士のフリをしていた以上、そう思われても仕方がなかった。

「ごめん、気をつける」
「ほんとですよ?それに氷室さんだって、新しい恋にちゃんと目を向けてください。でないと雪村さんの気持ちが報われませんから」
「ああ、分かった」

そう答えるしかない自分が歯がゆくて、弦はグッと気持ちを押し殺していた。
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