野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
 皇太后(こうたいごう)のご態度は露骨(ろこつ)だった。桐壺(きりつぼ)(いん)のご存命(ぞんめい)(ちゅう)はさすがに遠慮(えんりょ)なさっていたけれど、院がお亡くなりになってからは、これまでの仕返しだと言わんばかりに源氏の君に意地悪をなさる。
<やはりこうなってしまうか>
 源氏の君はうんざりして、もう参内(さんだい)する気にもおなりになれない。

 皇太后は左大臣(さだいじん)にも仕返しをなさる。左大臣が、姫君(ひめぎみ)東宮(とうぐう)時代の(みかど)ではなく、源氏の君と結婚させたことをいまだに(うら)んでいらっしゃった。
 皇太后の父君(ちちぎみ)、つまり帝の祖父君(そふぎみ)である右大臣(うだいじん)も、左大臣を軽んじて得意顔で政治をなさるようになった。桐壺院に信頼されて政治の実権(じっけん)(にぎ)っていらっしゃった左大臣だから、院がお亡くなりになれば権力は失われる。つまらなくお思いになるのも当然だった。

 (ひま)ができた源氏の君は、熱心に左大臣(さだいじん)(てい)をご訪問なさる。ご正妻(せいさい)(のこ)していかれた若君(わかぎみ)を大切におかわいがりになるから、左大臣は感激して、これまでどおり婿君としてお世話していらっしゃった。
 あちこちの恋人たちともほとんど(えん)が切れて、源氏の君は左大臣邸でのんびりとお暮らしになる。ご正妻がお元気のころより、今の方が理想的な婿君(むこぎみ)のようだった。
< 18 / 49 >

この作品をシェア

pagetop