音楽的秘想(Xmas短編集)
 ピアノが止めば、人気アイドルのコンサートにも負けない拍手と歓声があたし達に贈られた。スタンドから手を離し、優乃を目で呼ぶ。隣へやってきた相方と手を繋ぎ、揃って礼をした。再び大きな拍手音に包まれながら、ステージを後にする。向かう場所は、一つしかない。



「──ねぇ。あたしの歌、どうだった?」



 まじまじと見つめてくる視線が恥ずかしい。そんなに見られると溶けるじゃない、と思ったけど、あたしはただ、目の前の人の言葉を待った。

 やがてそいつは、顔をクシャリとさせて笑う。ねぇ、それってどういう意味よ。早く言いなさいよ。小さな苛々が、あたしの瞳からツーッ……と流れ落ちた。



「……麗紗、何で泣くの。」

「あんたこそ、何で笑ってんの。」



 質問に対して質問で返したら、また笑われた。もう、ちゃんと言ってよ。そんな目を向けたら、「仕方ないなぁ」と言って、やっぱり小さく笑った。



「俺が笑ってんのは、嬉しいから。」

「……じゃあ、あたしも嬉しいからだ。」



 不器用な歌うたいは、なかなか素直になれない。だからこれからも、ギター弾きを思いながら、歌を唄うんだろう。



fin.
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