音楽的秘想(Xmas短編集)
 席に戻り、呆然とした顔付きの舞に演奏はどうだったかと声をかける。ポカンとしたまま言葉を発しない彼女。演奏中に密かに送った視線の意味に、どうやら気付いてくれたようだ。

 バイオリンを大切にしまい込んだ時、何か呟く声がした。「えっ?」と顔を上げれば、えらく真面目な表情をしていた彼女。直後、ニコリと笑んだ。



「君のラブレター、しかと受け取った!」

「そう。で、返事は?」

「え、早くない?もうちょっと感動の余韻とかさぁ……」

「こっちは12年かかってんだよ。急ぎたい気持ちも分かれっつーの。」



 そう言った僕を見て、目の前の人物が吹き出した。眉をひそめてしまったのが自分でも分かる。彼女は「ごめんごめん!でも、今の言葉には笑うか吹き出すかのどっちかの反応しか出来なかったと思うな」と口にした。どっちも同じことだろ。再び顔をしかめそうになった時、彼女が妙に嬉しそうに口を開く。



「ちゃんと言ってくれないと、返事は致しかねます!」

「……あっそ。」



 一筋縄ではいかない彼女らしい台詞に溜め息。でも、彼女が僕の手を取る日は遠くなさそうだ。

 ──さぁ、伝えよう。この思いを歌に頼らず、僕の言葉で。



fin.
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