音楽的秘想(Xmas短編集)
 ここらじゃ名の知れた名門音楽学校・聖蘭学園に通って早二年。二度目のクリスマス音楽祭の舞台に立つことにしたのは気落ちした親友を励ますため、そして自分の実力を試すためでもある。ここの奴らに認められなければ、一般大衆の一部さえも惹き付けることは出来ない。まぁ、ここに居る奴らの大半は、プライドが高くて頭が固いんだろうけど。

 さっきの高階先輩が弾いた曲、要の傷口に塩塗りたくるようなもんだったな……そう思いながら、四列程前の椅子の背にもたれている背中を見やる。哀愁たっぷりで、濃霧に飲まれて今にも消えてしまいそうな人影に似ていた。



「それでは、続いてプログラム2番です。ギター学科2年、後田銀平君。曲目は『いつかのメリークリスマス』です。」



 放送部の生徒の品があるアナウンスで、俺の出番が告げられる。五年間共に過ごした相方を背中に乗せ、席を立って歩いていく。同じクラスのお調子者の奴らがピューッと口笛を鳴らしたけど、これから奏でる曲にはあまりにも不釣り合いだった。

 雰囲気を損なう音を無視して壇上に立つ。ギター学科は通称“馬鹿クラス”なんて言われているから、拍手も疎らだ。

 今に見てろよ──心で呟いた。
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