世界はそれを愛と呼ぶ
「何しに来たの?」
再度、そう訊ねた沙耶に彼らは。
「この一週間でね、フィーが帰ってきた」
抗争が起こってしまったから、と、向こうで足止めを食らっていたという、今回の事件の生き証人の養子。
マフィアの後継者であるという彼女は今、黒橋の街で作戦を聞いて、乗り気だと言う。
「……フィーが帰ってくる少し前、茉白が誰かに攻撃された」
「……」
「ひとりで行動していたんだけど、油断していたのかな。今も意識は戻っていない」
沙耶が強く、拳を握る。
「他の人は、怪我ひとつないけど……ひとまず、茉白は今、婚約者の家で匿われているよ」
知っている名前に、水樹は信じられなかった。
最愛を奪われる感覚は、何よりも嫌いだ。
それなのに、今、幼なじみはその苦痛に喘いでいる。
「─他には」
「他には……」
沙耶が促すまま、ふたりは報告をあげた。
ひとつひとつを聞きながら、沙耶は顔色を変えることなく、
「住民は今のところ、全員無事で……」
「廃墟の地下道は封鎖されたまま、御園家の方々が罠を仕掛けてくださっているよ」
二人の報告を聞いていく。
「真姫ちゃんのことや、四季の家の内部に関しては問題が多くて、まだ全然、分からないことだらけだけど……」
「流石に、人間の範疇を超えた問題は分からなくて」
普通の人間が、過度な力を手にしてしまったら。
─それはどんな、化学反応を示すのか。
「……私はね、この一週間、ここで、御園家について学んでいたの」
一通り聞き終えた後、沙耶は息を吸った。
深く息を吸って、吐いて、そして、言葉を紡いだ。
冷静さを失わないように、
現実を、見失うことがないように。
「鍛錬もしたわ。昔のように」
朝陽が生きていた頃のように、と、沙耶は空を見る。
「私が、私達が一体、何をしたの?何をしたら、こんなに酷いことばかり降りかかるの?私が産まれてきたことが間違いだったの?─ううん、それが違うことなんて、私、もう知ってしまったの」
独白。目を閉じて、ゆったりと風を感じるように。
「─きっと、相馬に出会ったあの日から、相馬を愛してしまったあの日から、私はゆっくりと適応していったのね」
ふわり、と、笑う、その瞳の奥にあるのは、何か。
「…………鬼帝の運命の、番の呼び方を改めるべきかもしれないな」
沙耶の姿を見ていた叔母が、静かに呟いた。
叔母の合図で下がった使用人達は、叔母が合図を下すまで、沙耶の姿に魅了されてしまっていた。
人間なのに、変に神々しさを感じるというか、無敵さを覚えてしまうような、”お姫様”。