世界はそれを愛と呼ぶ

第2節 はじまりの雷鳴

☪︎


「─相馬、サッパリしたね」

長い髪を、バッサリと切った。
理由は、動くのに邪魔だと思ったからだ。

でも流石に全部切るのは、出来なかった。
何故なら、番がいれば安定する衝動を安定させるのに、髪はよく使えたからだ。

簡単に言えば、能力を髪に分散させる事で体内に能力を留めることを避け、衝動的になる期間を長めにすることが可能な生態を利用して、相馬は番がいない中でも多忙な日々を捌くため、髪をとにかく伸ばしていた。

沙耶という存在を手にした今、正直、髪を伸ばしておく必要性はそんなにないが、相馬は普通よりも強い能力を持っているし、毎月、彼女に衝動の調和を要求するのは、あまりにも負担が大きすぎる。

そう考えた相馬は、下の方の髪をひとつに括り、上の部分はバッサリと切り落とした。
短髪の中に、長い髪が生えているように。

下の方ならば、髪の毛も邪魔になることはない。
とりあえず、顔にかかる横髪などが邪魔だったのだから。

「変じゃないか?」

「うん。綺麗に整ってるよ。気になるなら、後で美容室にでも行けばいいよ」

「あんまりこだわりはないんだけどな……」

手でくしゃくしゃと髪の毛を整え、甲斐に視線を渡すと、甲斐は静かに目を伏せて。

「……本当に厄介なことをしてくれたものだよね、敵も」

「ほんとだよ。おかげで慧が国を滅ぼさないよう、気を付けなきゃならんよ」

相馬の深い溜息に、甲斐は微笑む。

「慧の怒りは、神の怒り。神々に愛された血筋。四季の統率者。被害は是非、最小限でお願いしたいね」

「……お前、本当にそう思ってるか?」

あまりのにこにこ笑顔に突っ込めば、「思ってるよ」と、軽い言葉が返ってきた。

「まぁいいや……とりあえず、沙耶も特に問題なく、伸び伸びとやっているみたいだし」

「伸び伸びというか、暴れ回ってるに近いんだって」

報告書を片手に楽しそうな甲斐。

「良いよ。無事なら好きにやらせておいて」

「沙耶、かなり賢いもんね。報告によると、既に御園家を掌握寸前だって」

「……偏屈じじい共、老害は?」

「沙耶に負けたらしいよ」

「マジで?」

「マジで。……あと、桜の木の話はしたよね」

「ん。夏鶴達のことも知ってる。沙耶は恐らく、深淵に行ってるんだろうよ」

甲斐以外には話したことがないが、相馬も幼い頃、あの桜の木に誘われたことがある。

そこであった”彼”は、泣きそうな顔をしていた。


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