世界はそれを愛と呼ぶ
「……何か、ひとつ願いが叶うなら」
「なに?」
「鷹遠の、お嫁さんになりたいなぁ……」
泣きながらそう呟いた彼女の額に、口付ける。
そして、目元に。鼻先に。唇に。
─ここまでの関係になるのに、10年。
出逢ってから、10年。
鷹遠は18歳。神夜は16歳。
ある程度の準備は、整っている。
だから、神夜を連れて逃げられるだけの力はあった。
それをしなかったのは、彼女が望まなかったから。
─そんなある日、ずっと眠り続けていた鷹遠の能力が目覚め、そして、己の身体は亡き父親と同じように、人の姿を捨ててしまった。
角が生え、髪が伸び、目も髪も色が変わり、背は伸びて……問答無用で、鷹遠は神夜を連れて、その場を去る。
記憶を戻ったことにしよう。
そして、全てを糾弾するのだ。
「……」
─御園鷹遠の父親は、生粋の鬼であった。
御園家初代の配偶者が、鬼だったように。
初代の娘は、四季の力を神々より授かりし男と婚姻し、娘を産んだ。生まれたその娘は霊力も高く、鬼と番った。
そして、鷹遠を含む多くの子を産み、御前家に殺された。
愛妻を失った父は耐えられず、事切れた。
恐れられていた妖である父の弱さは、愛なのだと悟ったが、愛を知らなかった鷹遠にはずっと理解できなくて。
(─……ああ、でも。今なら)
今なら、理解できる。今なら、理解できてしまう。
「た、鷹遠?」
不安げな瞳。その瞳の奥に浮かぶのは、恐怖か。
「愛してるよ、神夜」
─どれだけ拒絶されても、二度と手放せない。
喉が渇いて、仕方がない。
欲しくて、欲しくて、気が狂いそうで。
「…………私も、あなたを愛してるわ」
恐ろしかったろう。
真実を少し見て、賢い彼女は察したろう。
それでも、鷹遠を抱き締めた。
鷹遠に、愛してる、と、囁いた。
それが全てで、それが、鷹遠の信じるものとなった。