July〜眠れない夜には〜
七月。風はジメジメと湿っぽいものの、空に輝く太陽は容赦なく地面を照り付ける。夏が本格的に始まった。

中学二年生の文月雛(ふみづきひな)は、幼なじみの青桐夏樹(あおぎりなつき)と帰っていた。夏樹とはクラスも部活も同じで、家も近所なのでこうして二人で帰ることが多い。

「もうすぐ夏休みだね〜。楽しみ!」

「その前にテスト返却あるぞ」

「夏樹!嫌なこと思い出させないでよ!」

「どんなに嫌でもテスト返却はやって来るんだよ」

夏樹と家の前で別れて家の中に入ると、家の中が何やらバタバタと慌ただしい。普段はまだ仕事中であろう両親が揃って何かの準備をしている。

「ただいま。どうしたの?」

「雛!お母さんたち、長野へ行くことになったの。おばあちゃんが倒れちゃったみたいで」

「えっ!?」

雛は驚く。長野に住む母方祖母は、一人暮らしだが足腰はしっかりしており、持病も何一つなかった。雛の胸に心配が込み上げてくる。

「あたしも長野に行った方がいい?」

「お前は学校があるだろ?おばあちゃんは大丈夫だ。お父さんたちがついているし、長野には叔母さんたちだっている。お前はここにいなさい」
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