イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
「……瑠奈ちゃんって湊君の料理食べた事ある?」
「ないです」
「へぇ~、彼女なのに?」
「はい」
「……」
あっ……ここって嘘でもありますって言った方がよかった? 今私アルバイト中だから彼女役だし。ちゃんとお仕事やらないと振り込んでもらえない……?
やばいな……挽回しないと。
「じゃあ、今度作ってもらいますね」
「……うん、美味しいよ」
何だかさっきから笑顔が怖い気もしたけれど、とりあえず逃げよう。そう思いトイレを出た。
けれど、何故だか湊さんが視界に入った。ちょうど入口近くで壁に背を預けて待っていたようだ。
「トイレですか?」
「トイレのついでに瑠奈が死んでたらと思って待ってた。ビール結構飲んだろ」
……なるほど、迎えに来てくれたと。今は彼氏という立場にいるから、なのか……ただ単純にあの質問攻めが面倒だから逃げてきた、なのか聞きたいところでもある。ずっと質問攻めだったし、私が席を立って離れてからもだいぶ話し込んでいたし。
「そんなことないよぉ~、私いたし!」
「信用ならない」
「え~ひっど〜い!」
湊さんの腕に抱き着こうとした早瀬さんをかわした湊さんは、私と手を繋いできた。
アルバイト中ではあるけれど……あまり、もう一つのバイト先でこういうのはなぁ。目撃されたらたまったもんじゃない。……けど、振り込んでもらう為には身体張ってでも努めなければいけない。借金返済と、あと家賃と……
「そうだ、明日大学ないだろ。ウチ泊まってくか」
「いいんですか? じゃあスーパー寄ってください。朝ご飯作ります」
だいぶ早瀬さんの痛い視線を感じたので、挽回するようにそう言ってみた。作るのは湊さんではなく私だと。だいぶ苦しいけれど、信じてくれる事を願います。
……まぁ、私が作ったところで節約の質素な料理しか出てこないけれど。
「じゃあ和食にしてくれ」
「味噌汁は?」
「瑠奈のがいい」
……味噌汁は湊さんの方が得意なのでは?
それに、私の料理事情を知っているはずだから私の作る味噌汁が一体いくらかかってるのか想像がつくはず。安売りのものが具材になる事も。
「でもお酒飲んでないじゃないですか」
「別に飲んでなくてもいいだろ。それとも、これから飲ませるつもりか? 俺が酒飲んだら大変だぞ?」
「……飲ませません」
湊さんが酔っ払ったら、一体どうなるのだろうか。気になるけれど、恐ろしそうだからそこには触れないでおこう。相手は警察官、私には未知の世界なんだから。
ちらり、と早瀬さんを覗き見ると……何故か顔を引きつらせている。さっきの会話に、何かおかしかったところがあっただろうか……?