裏社会の私と表社会の貴方との境界線
『琉愛たちは今、一生懸命戦ってるんだ。
この呪いの連鎖を断ち切るために。
今この瞬間も、琉愛の家族が戦ってる。
メアちゃんも琉愛たちと同じ被害者なんだよ。
全部、終わらせようよ。
琉愛にはね、みんなみたいに強い力がなくて戦えないんだ。
だからメアちゃんに託(たく)すね。
メアちゃんが呪いの力を利用して、ドールを操って戦ってほしい。
こんなこと言われても、協力する気なんて起きないよね?
だから琉愛からのプレゼント。
仲良い神様にお願いして、メアちゃんが記憶を思い出す魔法の道具を作ってもらったよ。
これでどうか琉愛を信じてほしい。』
私はもう一度、目の前で眠る琉愛ちゃんの姿を見た。
よく見たら、日記が握られていた反対の手に写真が握られている。
私は思わずそれに触れた。
その瞬間、まるで血が巡るみたいに記憶が蘇ってきた。
「あ…」
まだ実感が湧かないけど、体が覚えている。
『琉愛は俺たちの宝物だ』
『ちょっと琉愛姉、勝手にいなくならないでよね。心配するじゃん』
『今でもずっと貴女が大好きなんです…!』
特に印象に残っているのは兄の斗亜兄、弟の琉叶、親友であり前世の妹の華恋/カレン。
どうしてだかわからないけど、この人たちを守りたいと固く誓った。
ハッとして精神が現実に引き戻された時、目の前に女の人が立っていることに気がついた。
真っ黒な髪は腰まで伸びていて、目は猫のよう。
その女の人は真っ赤な唇をゆっくりと開けて言った。
「起きたのね琉愛。いえ…貴女にはメアと呼んだ方がわかりやすいかしら?」
ふっと妖艶に微笑んだ彼女の姿に、ゾクっとした。
それから彼女はゆっくりと近づいてきて、私の頬を優しくなでた。
「私は黄泉。貴女の元の体と契約をしている神よ。今、貴女の記憶を少し戻してあげたの。何を守るべきか、思い出したかしら?」
守るべきもの。
そう、私には絶対に失ってはいけないものがある。
もうあの時のように、大切な人を失わないために。
「本来、こんなことをするのはよくないのよ?でも私、あの子のことはずっと前から気に入ってるのよ。だから今回だけ手助けしてあげる」
「どういうこと…ですか?」
この人はまるで全てを理解しているかのように、物事を淡々と話す。
もう少しで、なにか思い出せる気がする。
だから私はそう聞いた。
「いい?私には貴女たちのことなんて、どうでもいいの。でもね、契約を交わしている以上私たちにも影響は及んでしまう。だから、“結果”が大事なのよ。今回は手助けした方が、楽しめるからそうしてあげているだけ。いいわね、条件は貴女の永遠の絶望よ」
そうか、思い出した。
私はついさっきこの人と第二の契約を交わした。
要求は斗亜兄と華恋の生きられる未来、代わりの代償は自分。
永遠に呪いに囚われ、死ぬその時まで絶望を味わう姿を黄泉に見せること。
大切な人が生きられるならと、私は喜んで命を差し出したのだ。
それが琉愛/メアの決意。
「統合に成功したわね。それなら、行きなさい。最後の戦いで、せいぜい私を楽しませなさい」
トンと背中を押された時にはもう、黄泉の姿はそこにはなかった。
私は覚悟を決めて、あの場所へあの戦場へと戻るために走り出した。
この体なら走れる。
私は必死に足を動かすことだけを考えた。
その後ろ姿を、黄泉はじっと見つめていた。
黄泉は琉愛に第二の契約時に、呪いが消滅することを話していなかった。
なぜなら統合に成功するためには、黄泉が手助けする必要があるから。
最初は統合させる気など全くなかったのだ。
けれど、そのせいで琉愛は覚悟を決められなかったのだ。
第二の契約の意味を見出せなかったから。
「第二の契約でふたつの体の統合を成功させるには、私の手助けが必要不可欠なのよね。だから統合は普通成功しない。……ほんと、華恋に似て面白くないんだから」
黄泉はいつもの妖艶な笑みを浮かべた。
黄泉は、琉愛に華恋の面影を重ねていた。
実は1番の親友である女神の“カレン”を、見捨てることなどできなかったという。
「たとえバットエンドで終わったとしても、全力を尽くして戦いなさい。じゃないと、私の手助けの意味がなくなってしまうのだからね」
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