裏社会の私と表社会の貴方との境界線
新たな日常の始まり
ピピピ、ピピピ。
いつものように、アラーム音が聞こえる。
う、ん…もう朝…?
いつものように重い瞼を開けると、横に誰かいることに気がついた。
おまけに、背中や腰が痛い。
とりあえず体を起こしてから、あたりを見回してみる。
どうやら昨日は遊び倒してみんな床で寝てしまったようだ。
あちこち痛いのはそのせいだろう。
床で寝たんだから、そうなるのは当たり前だ。
アラームが鳴ったということは、今の時刻は8時ということになる。
いつもならば瑠璃華や羅華はとっくに起きている時間だか、疲れて2度寝でもしたのだろう。
全く起きる様子もなく、私の隣で呑気にすやすやと眠っている。
「はあ…。全く、しょうがないわね」
そうあきれた声を出したが、思わず笑ってしまう。
今までの人生でこんな風に一夜を過ごしたことはなく、とても新鮮だった。
それが今の私にとっては、すごくすごく嬉しいことだった。
***
「ねぇナラ、わたくしはなんで生まれてきたんでしょうね?」
私は彼女の優しい、落ち着いた声が好きだった。
ずっとずっと、この声を聞くことが出来るのだと信じていた。
「さあ?私にも分かりません。ですが、カレン様が生きたいように生きればいいではありませんか。どんなカレン様にでも、私は一生お側にお仕えしますよ」
そう言って笑ってくれた。
いつでも隣のいると言ってくれた。
そう信じていたんだ。
だから、その日を境目に「自分らしくいよう」と、そう誓った。
***
「そんなこともあったわね」
昔を思い出して、泣きそうになる。
自分でも分かっている。
もう永遠にナラに会うことができないこと、前世では最悪の終わりを迎えたこと。
それが全て、私のせいであること。
「どうか、どうか、私と同じ道を歩かないで。約束だよ、みんな」
そう言った私の頬に、一筋の涙が流れる。
泣いたのなんていつぶりだろうか。
溢れ出しそうな感情をグッと胸にしまい、涙をぬぐってから部屋を出た。
***
ピンポーン。
玄関からチャイムの音が聞こえる。
今日は訪問の予定がないので、おそらくメア家の誰かだろう。
任務に行く私を迎えにきたのだ。
「今行くわ!」
雨晴家もだいぶ大きな屋敷であるため、今の私の返事はおそらく玄関までは聞こえていないだろう。
分かっていても、なんとなく返事をしなくてはという気分だった。
荷物を全て持ち、駆け足で長く大きい階段を降りていく。
やがて、雨晴家ご自慢の大きく立派な扉が見えてくる。
ここが玄関だ。
私は深呼吸してから玄関の扉をグッと押して、外へ出る。
外へ出ると、強い日差しが私を照らした。
そして、視界に映ったのはひとりの少年と黒い車。
よくよくみると、その少年はツキだった。
それを見て声をかける。
「ツキ…!」
「お姉ちゃん!」
私がツキを呼んだのとほぼ同時に、後ろから私を呼ぶ人の声が聞こえた。
振り返ると息を切らした瑠璃華と羅華、ユキがいた。
きっと起きた時に私がいなかったのに誰かが気がついて、みんなで急いで来たのだろう。
「お見送り?ふふっ、ありがとう」
3人に不安を抱かせないために、笑って見せた。
ここで泣いてしまったら…また誤ちを犯しそうだから。
「今度、華恋ちゃんの寮に遊びに行くから!絶対絶対、無事に帰ってきてね!!」
ユキが私の笑顔に答えるように言ってくれる。
「ええ、もちろんよ…!それまで私がいなくても頑張るのよ〜?」
皆でぎゅっと抱きしめ合い、私を含め4人で笑い出す。
こんなにまで想われている私は、幸せ者なのだろうと思う。
またいつか、こんな日が来たら良いな。
そんな淡い考えを抱きながら、満面の笑顔で手を振って「行ってきます!」と言った。
早く車に乗ろうとくるっと回れ右すると、いつのまにかぶつかりそうなくらい至近距離にツキが立っていた。
「終わったなら早く乗って。遅れるから」
さっきの気分が一気になくなるような、ちょっとした喪失感が出てきた。
ツキにはどうでもいいことだったのだろう。
まあ、私も遅れるのはごめんである。
自分に遅れないためなのだと言い聞かせて、いかにも高級そうなその車の後ろのドアを開けて椅子に座る。
前の席には運転手、隣にはツキが座っていた。
それから人数がそろわないことに気がつく。
「あれ?他のふたりは?」
「用事があるらしいよ、僕もよく知らないけど。どうせてきとうに来るでしょ」
ツキは兄弟のことも、周りと同じようにあまり気にかけない。
何故こんな態度をとっているか、頑なに喋らないので深く詮索したことはない。
まぁ、あいつらといても楽しくないしどうでもいいや。
態度には出さず心の中でそう言い、んーっとあくびをして緊張をほぐし、目的地へと車に乗って向かって行った。
***
雨晴家を出発してから10分ほど経った頃、ふと思った。
気まずいな…。
普段は瑠璃華や羅華、ユキといるため、変に気を使うこともなくとても気楽なのだ。
しかし、メア家との関わりといったら任務くらいなので話すことも思いつかない。
それによりによって、あまり喋らないツキとふたり。
ユウとかならまだマシなんだろうが。
いっそこのまま寝てやり過ごそうか、そう思った時ツキが珍しく私に言葉を発した。
「昨日…4人で何やってたの?」
「えっ?」
驚きすぎて、こんな単純な言葉すらも瞬時に理解することができなかった。
そんな私を見て、ツキが嫌そうに顔をしかめた。
「何、僕と話すのがそんなに嫌って?」
「ち、違う違う!その…なんで4人でいたって知ってるのかなって」
「私に話しかけてきたことにびっくりしたから」なんて言ったら、余計に機嫌を悪くさせそうな気がして嘘をついた。
けれど、この疑問も本当。
昔に嘘をつくのも大の得意になった。
だからか、今もツキは疑う様子もなく話を続けた。
「昨日、任務のことで雨晴ボスに呼ばれたんだ。その後ユキが華恋に会うって言ってたの思い出して、華恋の部屋の前まで行った時に4人の声が聞こえたから」
私のこと心配してくれたの…?
とっさにそう思ったが、そんなことをツキがする必要がない。
それにツキはとにかく他人に興味がないから、そんなことはありえないだろう。
「そっか」
そっけない返事をした後、ツキが何か言っていた気がする。
「心配くらいするでしょ…」
ボソッとツキが言った事に、私は気がつかなかった。
***
ッキ!
約1時間後に車が停まった…つまり目的地についたようだ。
「そう言えば私、目的地がどこか知らないわ。迎えに行くとしか言われてないから…」
すぐそばにいたツキに、とりあえず疑問を投げかけてみる。
一瞬嫌そうにしたが、ひとりで納得したようにうなずいてから答えてくれた。
「スカイ学園の寮。僕達は3階の部屋だって」
「?“僕達”って…みんな同じ部屋なの?」
寮っていうのはひとり1部屋だと思っていた。
それに、年頃の男女が同じ部屋っていうのも不思議だ。
「そうだってよ。まあ、個人部屋が1人1人あるみたいだし安心して」
「えっ?!あ、うん!」
今のは本当に焦った。
感情を出さぬよう教わってきたので、なかなか私の心を読める人物などいないから。
それにしても、動揺しすぎた。
あんなにも感情を出したのは何年ぶりだろうかと思うほどに。
「おーい!こっちこっち!」
寮の方から、誰かを呼んでいるような声が聞こえた。
まだ寮へは距離があるので、そこに立っている人物の顔はよく見えない。
しかし、今の声から察するに…。
「「ユウうるさ」」
私とツキの声が重なり、顔を見合わせる。
その時見た表情は一度も忘れた事がない。
ツキが私に初めて見せてくれたのは、とても穏やかで優しい笑顔だった。
いつものように、アラーム音が聞こえる。
う、ん…もう朝…?
いつものように重い瞼を開けると、横に誰かいることに気がついた。
おまけに、背中や腰が痛い。
とりあえず体を起こしてから、あたりを見回してみる。
どうやら昨日は遊び倒してみんな床で寝てしまったようだ。
あちこち痛いのはそのせいだろう。
床で寝たんだから、そうなるのは当たり前だ。
アラームが鳴ったということは、今の時刻は8時ということになる。
いつもならば瑠璃華や羅華はとっくに起きている時間だか、疲れて2度寝でもしたのだろう。
全く起きる様子もなく、私の隣で呑気にすやすやと眠っている。
「はあ…。全く、しょうがないわね」
そうあきれた声を出したが、思わず笑ってしまう。
今までの人生でこんな風に一夜を過ごしたことはなく、とても新鮮だった。
それが今の私にとっては、すごくすごく嬉しいことだった。
***
「ねぇナラ、わたくしはなんで生まれてきたんでしょうね?」
私は彼女の優しい、落ち着いた声が好きだった。
ずっとずっと、この声を聞くことが出来るのだと信じていた。
「さあ?私にも分かりません。ですが、カレン様が生きたいように生きればいいではありませんか。どんなカレン様にでも、私は一生お側にお仕えしますよ」
そう言って笑ってくれた。
いつでも隣のいると言ってくれた。
そう信じていたんだ。
だから、その日を境目に「自分らしくいよう」と、そう誓った。
***
「そんなこともあったわね」
昔を思い出して、泣きそうになる。
自分でも分かっている。
もう永遠にナラに会うことができないこと、前世では最悪の終わりを迎えたこと。
それが全て、私のせいであること。
「どうか、どうか、私と同じ道を歩かないで。約束だよ、みんな」
そう言った私の頬に、一筋の涙が流れる。
泣いたのなんていつぶりだろうか。
溢れ出しそうな感情をグッと胸にしまい、涙をぬぐってから部屋を出た。
***
ピンポーン。
玄関からチャイムの音が聞こえる。
今日は訪問の予定がないので、おそらくメア家の誰かだろう。
任務に行く私を迎えにきたのだ。
「今行くわ!」
雨晴家もだいぶ大きな屋敷であるため、今の私の返事はおそらく玄関までは聞こえていないだろう。
分かっていても、なんとなく返事をしなくてはという気分だった。
荷物を全て持ち、駆け足で長く大きい階段を降りていく。
やがて、雨晴家ご自慢の大きく立派な扉が見えてくる。
ここが玄関だ。
私は深呼吸してから玄関の扉をグッと押して、外へ出る。
外へ出ると、強い日差しが私を照らした。
そして、視界に映ったのはひとりの少年と黒い車。
よくよくみると、その少年はツキだった。
それを見て声をかける。
「ツキ…!」
「お姉ちゃん!」
私がツキを呼んだのとほぼ同時に、後ろから私を呼ぶ人の声が聞こえた。
振り返ると息を切らした瑠璃華と羅華、ユキがいた。
きっと起きた時に私がいなかったのに誰かが気がついて、みんなで急いで来たのだろう。
「お見送り?ふふっ、ありがとう」
3人に不安を抱かせないために、笑って見せた。
ここで泣いてしまったら…また誤ちを犯しそうだから。
「今度、華恋ちゃんの寮に遊びに行くから!絶対絶対、無事に帰ってきてね!!」
ユキが私の笑顔に答えるように言ってくれる。
「ええ、もちろんよ…!それまで私がいなくても頑張るのよ〜?」
皆でぎゅっと抱きしめ合い、私を含め4人で笑い出す。
こんなにまで想われている私は、幸せ者なのだろうと思う。
またいつか、こんな日が来たら良いな。
そんな淡い考えを抱きながら、満面の笑顔で手を振って「行ってきます!」と言った。
早く車に乗ろうとくるっと回れ右すると、いつのまにかぶつかりそうなくらい至近距離にツキが立っていた。
「終わったなら早く乗って。遅れるから」
さっきの気分が一気になくなるような、ちょっとした喪失感が出てきた。
ツキにはどうでもいいことだったのだろう。
まあ、私も遅れるのはごめんである。
自分に遅れないためなのだと言い聞かせて、いかにも高級そうなその車の後ろのドアを開けて椅子に座る。
前の席には運転手、隣にはツキが座っていた。
それから人数がそろわないことに気がつく。
「あれ?他のふたりは?」
「用事があるらしいよ、僕もよく知らないけど。どうせてきとうに来るでしょ」
ツキは兄弟のことも、周りと同じようにあまり気にかけない。
何故こんな態度をとっているか、頑なに喋らないので深く詮索したことはない。
まぁ、あいつらといても楽しくないしどうでもいいや。
態度には出さず心の中でそう言い、んーっとあくびをして緊張をほぐし、目的地へと車に乗って向かって行った。
***
雨晴家を出発してから10分ほど経った頃、ふと思った。
気まずいな…。
普段は瑠璃華や羅華、ユキといるため、変に気を使うこともなくとても気楽なのだ。
しかし、メア家との関わりといったら任務くらいなので話すことも思いつかない。
それによりによって、あまり喋らないツキとふたり。
ユウとかならまだマシなんだろうが。
いっそこのまま寝てやり過ごそうか、そう思った時ツキが珍しく私に言葉を発した。
「昨日…4人で何やってたの?」
「えっ?」
驚きすぎて、こんな単純な言葉すらも瞬時に理解することができなかった。
そんな私を見て、ツキが嫌そうに顔をしかめた。
「何、僕と話すのがそんなに嫌って?」
「ち、違う違う!その…なんで4人でいたって知ってるのかなって」
「私に話しかけてきたことにびっくりしたから」なんて言ったら、余計に機嫌を悪くさせそうな気がして嘘をついた。
けれど、この疑問も本当。
昔に嘘をつくのも大の得意になった。
だからか、今もツキは疑う様子もなく話を続けた。
「昨日、任務のことで雨晴ボスに呼ばれたんだ。その後ユキが華恋に会うって言ってたの思い出して、華恋の部屋の前まで行った時に4人の声が聞こえたから」
私のこと心配してくれたの…?
とっさにそう思ったが、そんなことをツキがする必要がない。
それにツキはとにかく他人に興味がないから、そんなことはありえないだろう。
「そっか」
そっけない返事をした後、ツキが何か言っていた気がする。
「心配くらいするでしょ…」
ボソッとツキが言った事に、私は気がつかなかった。
***
ッキ!
約1時間後に車が停まった…つまり目的地についたようだ。
「そう言えば私、目的地がどこか知らないわ。迎えに行くとしか言われてないから…」
すぐそばにいたツキに、とりあえず疑問を投げかけてみる。
一瞬嫌そうにしたが、ひとりで納得したようにうなずいてから答えてくれた。
「スカイ学園の寮。僕達は3階の部屋だって」
「?“僕達”って…みんな同じ部屋なの?」
寮っていうのはひとり1部屋だと思っていた。
それに、年頃の男女が同じ部屋っていうのも不思議だ。
「そうだってよ。まあ、個人部屋が1人1人あるみたいだし安心して」
「えっ?!あ、うん!」
今のは本当に焦った。
感情を出さぬよう教わってきたので、なかなか私の心を読める人物などいないから。
それにしても、動揺しすぎた。
あんなにも感情を出したのは何年ぶりだろうかと思うほどに。
「おーい!こっちこっち!」
寮の方から、誰かを呼んでいるような声が聞こえた。
まだ寮へは距離があるので、そこに立っている人物の顔はよく見えない。
しかし、今の声から察するに…。
「「ユウうるさ」」
私とツキの声が重なり、顔を見合わせる。
その時見た表情は一度も忘れた事がない。
ツキが私に初めて見せてくれたのは、とても穏やかで優しい笑顔だった。