白狼王の贄姫のはずが黒狼王子の番となって愛されることになりました


「と、いうわけでお前は今日から俺のものだ。白狼王に食べてもらえなくて残念だったか?」
「い、いえ!」

 レリウスに連れられて、ライラは王城内にある一室に通された。こじんまりとしているが、小綺麗で過ごしやすそうな部屋だ。

(食べられるとかつまり即死よね?そんなの怖すぎて無理!)

 レリウスの言葉を聞いて、考えただけて怖すぎる、とライラはぎゅっと目を瞑って首を振る。するとレリウスはプッと吹き出した。

「お前、面白いな。それにしても……」

 そう言って、ライラの手を急に掴んだ。

(えっ!?)

 突然のことにライラは驚くが、レリウスは黙ってライラの手をジロジロと見ている。

「お前、本当に第二王女か?王女のくせに、手がボロボロで、まるで水仕事ばかりする侍女みたいだ。いや、侍女にしてもひどすぎる。待遇の悪い屋敷で働く侍女といったところか」

 ライラの指先はあかぎれでボロボロになっている。驚いてライラは思わず手を引こうとするが、レリウスは掴んだ手を離さず、逆にグイッと力強く引き寄せた。そしてライラの耳元に自分の顔を近づける。

(ひっ!近い!)

「お前、第二王女のフリをした侍女なんじゃないのか?人間族もたいしたものだな。偽物を送り付けてくるなんて俺たちをバカにしてる。喧嘩でも売ってるのか?」
「ち、違います!私は偽物なんかじゃありません!」
「だったらなぜこんな手をしてる?王女であれば水仕事なんかしないし優雅に暮らしてるはずだろう」
「そ、それは……」

 目を泳がせて言いよどむライラに、レリウスはふん、と鼻を鳴らして手を離した。

「まぁいい。お前の素性は徹底的に調べ上げる。嘘だとわかったら人間族に返してやろう。こちらをバカにしたお礼もしっかりしてやらないとな」

 そう言ってニヤリと笑うと、レリウスはドアまで歩いていく。

「いいか、お前の素性が判明するまで勝手な行動は許さない。お前が何者であろうと、お前は俺のものだ。俺の許可なく動き回ることは許さない、覚えておけ」

 振り返ってからそう言って、レリウスは部屋から出ていった。

 ポツン、と部屋に取り残されたアリアは呆然としてドアを見つめている。

(勢いがすごい……。それにしても、この部屋、私が過ごす部屋ってことでいいのかしら?)

 キョロキョロと部屋の中を見渡してから、近くにあったソファへ恐る恐る座る。ふかふかなその座り心地に、アリアは思わず口元を緩めて頬を赤らめた。

(ふ、ふかふか!すごいふかふかだわ!部屋もとても綺麗だし、こんな素敵な所にいられるなんて……今のところは食べられる様子もないし、生贄になれてよかった!)

 ほうっと息を吐いて自分の両手を見つめる。あかぎれになったボロボロの手を見ながら、レリウスに言われたことを思い出した。

「第二王女なんだけどな……」

 ポツリ、と呟くライラの声が静かな部屋に響き渡った。
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