離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
 どちらからともなく再び唇を寄せ、今度は激しく求め合う。その勢いのままにベッドに倒れ込み、ずっと足りなかった何かを埋めるように肌を重ね合う。

 ただただ互いの名だけを呼び合いながら交わす情は、これ以上ないほど千博への想いを溢れ出させた。

 果てると同時に涙がこぼれていく。千博を求めてもいい、愛を伝えてもいいのだと、心の中に喜びが広がって涙が止まらない。

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、美鈴はずっと言いたかった言葉を口にする。

「千博さんっ、私は今も――」
「ごめん。間違いだった。抱くべきじゃなかった」

 とても苦しそうな表情で見つめられる。美鈴とは似ても似つかない表情に、二人の想いが同じでないことを教えられる。肝心の『愛している』を言う間も与えてもらえず、たった今まで味わっていた幸福な時間は間違いにさせられてしまった。

「すまない」

 千博はそれだけ言うと、美鈴を残して部屋を出る。

 体はこれ以上ないほど火照っているのに、美鈴の心はたった一瞬で氷漬けにされてしまった。

「どうしてよ……なんで……それならどうして抱いたのっ……」

 温かな涙は冷たい涙へと変化し、美鈴の頬と枕を濡らしていく。

 高ぶらせるだけ高ぶらせておいて、この気持ちの行き先を失わせるなどあまりに残酷ではないか。どうして期待を抱かせるようなことをしたのか。

 美鈴の胸中は荒れに荒れ、せっかくつきはじめていた心の整理も無に帰してしまった。千博への想いを閉じ込めていた蓋を開けられたのだから無理もない。

 この半年という長くて短い時間の中で、美鈴は千博への想いを再認識し、千博は美鈴への愛がないことを再認識したということだろう。どうしたって二人は相容れない。

 美鈴は一人、行き所のない想いを涙に込めて、ひたすら枕を濡らし続けていた。
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