The previous night of the world revolution5~R.D.~
…お姉ちゃんだった。

「私の妹に、何をしているのかと聞いているんです」

華弦お姉ちゃんは、殺気立った目で宗教勧誘の男性を睨み付けた。

その目は、以前私が憲兵局の刺客に命を狙われたとき、すんでのところで助けに来てくれたルヴィアさんの目と同じ。

マフィアの目だった。

「あ、いや…。私は…」

さすがの男性も、お姉ちゃんの殺気に怯えたのだろう。

パッと私の手を離し、私は自由になった。

しかし、お姉ちゃんは男性の手首を離さなかった。

「私の妹に用があるなら、私が聞きましょう。何ですか」

「い、いえ。その…。少し、お話ししていただけですから…」

「何の話を?妹に何をしようとしていたんです」

お姉ちゃんは、犯罪者を尋問するかのように責め立てた。

男性は一歩、二歩と後退り。

「も、もう用事は済みましたから。失礼しました」

そう言って、お姉ちゃんが手首を離すなり、逃げるように人混みに消えていった。

お姉ちゃんは、その背中を睨み付け。

そして、くるりと私に向き直った。

「大丈夫ですか?フューニャ」

「え、えぇ…」

助かった。

お姉ちゃんがいてくれなかったら、どうなっていたか。

本当に、あの人に連れていかれていたかもしれない。

「全く、私が見ていない隙に、あんな小汚ない男が、私のフューニャにナンパなど…。睾丸の一つでも蹴りあげてやれば良かった」

恐ろしい我が姉である。

しかし。

「…ナンパではありませんよ」

「え?私の妹があまりに可愛いから、良からぬことを企んだのでは…。…?フューニャ、それは何です?」

お姉ちゃんは、私が持っているパンフレットを指差した。

結局、これは押し付けられてしまった。

「先程の男性に押し付けられてしまって…」

お姉ちゃんに、黄色いパンフレットを見せる。

そこには、『天の光教~博愛の教え~』というタイトルが、仰々しく印刷されていた。

『天の光教』…?

何だか聞いたことがあるような…。

「…講演があるから、参加しろと…。チケットを同封して…」

「…」

「…お姉ちゃん?」

お姉ちゃんは、鋭い目付きでパンフレットを睨み。

私の手から、パンフレットを取り上げた。

そして、そそくさと自分のバックにしまった。

「これは私が預かります。先程の男性のことは、もう忘れなさい」

「お姉ちゃん…?」

「良いから。さぁ、お昼を食べに行きましょう。あなたは、何も心配しなくて良いんですよ」

そう言って、お姉ちゃんは強引にこの話を終わらせ。

その日、それ以降、この話を蒸し返すことはなかった。

何となく聞きづらくて、私もこのことは、もう何も言わなかった。
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