身代わり婚~光を失った騎士団長は、令嬢へ愛を捧げる
奪われる居場所
レオンは約束通り、手紙を送ってきてくれた。
手紙には、王国よりも進んだ魔道具の技術を賞賛していた。そしてカタリナの体調を気遣い、早く会いたいという言葉で結ばれる。
カタリナはすぐに返信をしたためる。
内容は主に体調のこと。
医者から順調にお腹の子どもが育っていること、そしてレオンと同じように彼の体調を気遣い、それから帰りを待っているという言葉で結んだ。
生活はデボラがいるお陰で、何の問題もない。
夏から秋、秋から冬、そして春。
季節が瞬く間に過ぎていき、やがてカタリナは可愛らしい女の子を出産した。
「奥様、おめでとうございます。元気な女の子ですよっ」
産着に包まれた赤ん坊は、元気一杯に泣いた。
腕でしっかりと抱きしめる。
「マリアンヌ」
それがこの子の名前だ。
二人で候補を出し合い、最終的にレオンが決めたのだ。
レオンが帰宅するまで残り一ヶ月ちょっと。
デボラが身の回りを整えてくれたお陰で不自由することなく過ごせそうだった。
そんなある日の朝。
早朝からノッカーの音が屋敷に響く。
(こんな朝早く誰かしら)
珍しい来客に、もしかしたらレオンかもしれないと、すぅすぅと穏やかな寝息をたてるマリアンヌを抱き上げ、玄関へ急ぐ。
その間もノッカーの重々しい音は鳴り続けていた。
玄関の扉を前に深呼吸をし、カタリナは扉を開ける。
「はい」
すると、男たちが体をねじ込むように押し入ってきた。
「な、何ですか、あなたたちは……」
「久しぶりね、カタリナ」
「!」
ここで聞くはずのない声に、カタリナは愕然としてしまう。
現れたのは、アスターシャだった。
「ずいぶん、ぼろい屋敷ね。公爵家の持ち物とは思えないわ」
全身から血の気が引く。
「……な、何をしにきたのですか?」
「決まってるじゃない。私は本物の公爵夫人よ。レオンの目の手術がうまくいったって話を聞いたから、あんたは用済み。今までご苦労だったわね」
「それはどういう……」
「決まってるじゃない! あんたは私の身代わりで嫁いだのよ? 私が本物の公爵夫人なんだから、ここにいるべきなのはあんたじゃなくて、私……って、なによ、それ」
アスターシャが、カタリナが抱く赤ん坊に気付く。
「ちょっと、それ……」
アスターシャは男たちに命じる。
男の一人が乱暴に、カタリナの腕から赤ん坊を奪う。
「ら、乱暴はやめてくださいっ!」
マリアンヌが驚いたように泣き出す。
「ガキみたいです」
「冗談でしょ。あんた、私のレオンと子どもを作ったわけ!?」
信じられないという顔で、アスターシャはカタリナを睨み付けてくる。
その鋭い眼差しに過去のトラウマが蘇り、カタリナは全身を震えさせ、動けなくなり、目を伏せてしまう。
「小動物みたいな性格のくせに、やることはちゃっかりやるのね! ああもう、うるさいわね!」
「殺しますか?」
「やめてください! お願いします! マリアンヌに罪はありません!」
アスターシャが鼻で笑う。
「マリアンヌ? 大層な名前ねっ。ちょっと、いつまで立っているのよ! 頭が高いのよ、小娘の分際で!」
アスターシャは扇で、カタリナの右のこめかみを乱暴に叩く。
「っ!」
キーン、という耳鳴りと共に、カタリナは冷たい床に倒れ込んだ。
それをアスターシャが乱暴に、カタリナの頭を踏みつけてくる。
「自分が身代わりだということも忘れて、ちゃっかり本物の公爵夫人ぶっているわけ!? どんだけ図々しいのよ!」
「あ……お、ねがい、します……お、お嬢様……どうか、マリアンヌの命だけはどうか、助けて、く、ください……っ」
「まあ、いいわ。男だったら殺してたけど、娘よね。だったら都合がいいわ。金持ちの中年貴族にでも嫁がせるのに使えるかもしれないものねえっ! 幼児性愛車の変態が喜ぶはずよ!」
アハハハハハ、とアスターシャはこれみよがしに邪悪な笑いを響かせる。
男たちも一緒になってゲラゲラと笑い出す。
「じゃ、あんたには私たちの愛の巣から出ていってもらうわね。連れて行って。予定通り、頼むわよ」
「はい、お嬢様」
頭から足をどけたアスターシャは、階段を上がって行く。
心身共に酷く傷つけられて茫然自失となったカタリナは男たちに両腕を掴まれ、引きずられるようにして外へ出される。
そして外に停まっている馬車に乗せられた。
車内にはカタリナを監視するための男が一人、そして御者の席に二人の男が乗った。
「あんたも災難だよなあ。あんないかれた女に目を付けられるなんて」
男がニヤニヤしながら、カタリナを一瞥する。
カタリナは歯の根が合わないくらい震えてしまう。
これから自分はどうなってしまうのか。
また叔父夫婦の元へ連れ戻され、奴隷のように働かされるのだろうか。
(レオン様……)
目が無事に見えるようになった彼と一度でもいい会いたかった。そして、マリアンヌを、「私たちの娘です」と伝えて、抱いて欲しかった。
しかしもう何もかも叶わぬこと。
全ては夢だった。そう、地獄のような日々の中で見た一炊の夢に過ぎなかった。
アスターシャの言う通り、レオンの妻はカタリナではない。
カタリナは身代わり。偽物の妻に過ぎないのだ。
あまりに幸せすぎで、穏やかすぎる日々がこれからも当たり前のように続くと思っていた。
「……っ」
込み上げる苦しみと絶望、そして腕の中についっさきまであったはずのマリアンヌの温もりとで、涙がとめどもなく溢れる。
男たちには聞かれたくないと思って唇が色が変わるくらい噛みしめるが、嗚咽を抑えきれなかった。
そんな泣き顔を見ながら、男がニタニタと笑う。
それからどれくらい経ったのだろうか。
ついさっきまで晴れていたはずの雲はにわかにかき曇れば、まるで夜のように辺りが暗くなった。
ぽつぽつと雨粒が、窓を叩く。
ゴロゴロと腹に響くような雷鳴が聞こえる。
馬車が急停車し、カタリナははっと我に返った。
「この辺りでいいだろ」
もう叔父夫婦の屋敷に到着したのだろうかと、カタリナが窓向こうの景色を見ると、そこは森だった。
(ここは、どこ?)
「さてと、お嬢さん。俺たちがあの小娘に命じられたことなんだがね、お前を殺せ、と言われたんだ」
「!」
「だけどな、あんたみたいに別嬪さんをむざむざ殺すのはさすがに、躊躇われるんだよなあ。俺たちだって人を殺すことに抵抗がない訳じゃねえんだ」
男の目の奥には、欲望の炎がちらつく。
カタリナが男と距離を取ろうとするが、狭い馬車の中だ。すぐに背中が扉にぶつかってしまう。
男が爬虫類のように瞬きの極端に少ない眼差しを向けてきたかと思えば、顎を乱暴に掴まれてしまう。
まるで自分がこれから、カタリナを支配する人間だと主張するように、自分から目を背けることを許さなかった。
「怯えるなって。俺の愛人にしてやるよ。あの女にはお前は死んだって伝える。そうすりゃ、万事解決。なあに。俺はこう見えても女には優しいんだ」
男が舌なめずりして、カタリナの唇を塞ごうと顔を近づけてくる。
全身に鳥肌が立つ。カタリナは思いっきり、男の股間を蹴り上げた。
「ぐぉ!?」
男が体のくの字に折った。
カタリナは扉の取っ手に手をかけると、転げるように馬車から飛び出す。
「て、てんめえ……!」
馬車の中から男の呻きが聞こえる。
カタリナは藪を掻き分けるようにして森の中に飛び込んだ。
「クソ女! そんなに殺して欲しいなら、ズタズタに引き裂いてやるよ!」
男の怒りに我を忘れたような絶叫が、響きわたった。
カタリナは夢中で走る。
顔を叩く雨粒は激しさを増す。
薄暗い周囲が一瞬昼間のように明るくなり、どこかで雷が落ちた。
息が切れ、足が鉛のように重たくなるが、足を止めれば待っているのは死だけだ。
涙がとめどもなく溢れ、視界が歪んだ。
カタリナは溢れる涙を腕で拭い、ただただ闇雲に走り続ける。
だが男たちの声は確実に近づき、そしてついに、男の手が届く。
「っ!?」
襟首を掴まれ、仰向けの格好で引き倒されてしまう。
乱暴に地面に倒された衝撃で咳き込んだ。
三人の男たちに取り囲まれる。
「殺すか?」
「その前に、男を舐めた仕置きをしないとなっ。さっきまでは優しくしてやるつもりだったが、こいつはとんでもねえじゃじゃ馬だ。自分が浅ましい女だってことをしーっかり、分からせねえと!」
男たちの手が伸びてくる。
「いや、や、やめて……!」
必死に抗うが、女の細腕で男三人を相手にまともな抵抗などできるはずがない。
むしろ抵抗することで男たちを楽しませてしまっている。
次の瞬間、どこからともなく飛んで来た矢が、男の一人の眉間を射貫く。
「げ、ぇ……」
男が白目を剥いて倒れた。
「なんだ、どこから……」
周囲を見回すもう一人の男の眉間をさらにもう一本の矢が射貫く。
「ひい!」
残された男は背中を向けて逃げ出すが、すぐに背中に矢を浴びて倒れた。
ガサガサと藪が鳴る音が近づいてくる。
意識が遠くなり、カタリナを包み込む音が小さくなっていく。
やがて、目の前が真っ暗に塗り潰されていった。
手紙には、王国よりも進んだ魔道具の技術を賞賛していた。そしてカタリナの体調を気遣い、早く会いたいという言葉で結ばれる。
カタリナはすぐに返信をしたためる。
内容は主に体調のこと。
医者から順調にお腹の子どもが育っていること、そしてレオンと同じように彼の体調を気遣い、それから帰りを待っているという言葉で結んだ。
生活はデボラがいるお陰で、何の問題もない。
夏から秋、秋から冬、そして春。
季節が瞬く間に過ぎていき、やがてカタリナは可愛らしい女の子を出産した。
「奥様、おめでとうございます。元気な女の子ですよっ」
産着に包まれた赤ん坊は、元気一杯に泣いた。
腕でしっかりと抱きしめる。
「マリアンヌ」
それがこの子の名前だ。
二人で候補を出し合い、最終的にレオンが決めたのだ。
レオンが帰宅するまで残り一ヶ月ちょっと。
デボラが身の回りを整えてくれたお陰で不自由することなく過ごせそうだった。
そんなある日の朝。
早朝からノッカーの音が屋敷に響く。
(こんな朝早く誰かしら)
珍しい来客に、もしかしたらレオンかもしれないと、すぅすぅと穏やかな寝息をたてるマリアンヌを抱き上げ、玄関へ急ぐ。
その間もノッカーの重々しい音は鳴り続けていた。
玄関の扉を前に深呼吸をし、カタリナは扉を開ける。
「はい」
すると、男たちが体をねじ込むように押し入ってきた。
「な、何ですか、あなたたちは……」
「久しぶりね、カタリナ」
「!」
ここで聞くはずのない声に、カタリナは愕然としてしまう。
現れたのは、アスターシャだった。
「ずいぶん、ぼろい屋敷ね。公爵家の持ち物とは思えないわ」
全身から血の気が引く。
「……な、何をしにきたのですか?」
「決まってるじゃない。私は本物の公爵夫人よ。レオンの目の手術がうまくいったって話を聞いたから、あんたは用済み。今までご苦労だったわね」
「それはどういう……」
「決まってるじゃない! あんたは私の身代わりで嫁いだのよ? 私が本物の公爵夫人なんだから、ここにいるべきなのはあんたじゃなくて、私……って、なによ、それ」
アスターシャが、カタリナが抱く赤ん坊に気付く。
「ちょっと、それ……」
アスターシャは男たちに命じる。
男の一人が乱暴に、カタリナの腕から赤ん坊を奪う。
「ら、乱暴はやめてくださいっ!」
マリアンヌが驚いたように泣き出す。
「ガキみたいです」
「冗談でしょ。あんた、私のレオンと子どもを作ったわけ!?」
信じられないという顔で、アスターシャはカタリナを睨み付けてくる。
その鋭い眼差しに過去のトラウマが蘇り、カタリナは全身を震えさせ、動けなくなり、目を伏せてしまう。
「小動物みたいな性格のくせに、やることはちゃっかりやるのね! ああもう、うるさいわね!」
「殺しますか?」
「やめてください! お願いします! マリアンヌに罪はありません!」
アスターシャが鼻で笑う。
「マリアンヌ? 大層な名前ねっ。ちょっと、いつまで立っているのよ! 頭が高いのよ、小娘の分際で!」
アスターシャは扇で、カタリナの右のこめかみを乱暴に叩く。
「っ!」
キーン、という耳鳴りと共に、カタリナは冷たい床に倒れ込んだ。
それをアスターシャが乱暴に、カタリナの頭を踏みつけてくる。
「自分が身代わりだということも忘れて、ちゃっかり本物の公爵夫人ぶっているわけ!? どんだけ図々しいのよ!」
「あ……お、ねがい、します……お、お嬢様……どうか、マリアンヌの命だけはどうか、助けて、く、ください……っ」
「まあ、いいわ。男だったら殺してたけど、娘よね。だったら都合がいいわ。金持ちの中年貴族にでも嫁がせるのに使えるかもしれないものねえっ! 幼児性愛車の変態が喜ぶはずよ!」
アハハハハハ、とアスターシャはこれみよがしに邪悪な笑いを響かせる。
男たちも一緒になってゲラゲラと笑い出す。
「じゃ、あんたには私たちの愛の巣から出ていってもらうわね。連れて行って。予定通り、頼むわよ」
「はい、お嬢様」
頭から足をどけたアスターシャは、階段を上がって行く。
心身共に酷く傷つけられて茫然自失となったカタリナは男たちに両腕を掴まれ、引きずられるようにして外へ出される。
そして外に停まっている馬車に乗せられた。
車内にはカタリナを監視するための男が一人、そして御者の席に二人の男が乗った。
「あんたも災難だよなあ。あんないかれた女に目を付けられるなんて」
男がニヤニヤしながら、カタリナを一瞥する。
カタリナは歯の根が合わないくらい震えてしまう。
これから自分はどうなってしまうのか。
また叔父夫婦の元へ連れ戻され、奴隷のように働かされるのだろうか。
(レオン様……)
目が無事に見えるようになった彼と一度でもいい会いたかった。そして、マリアンヌを、「私たちの娘です」と伝えて、抱いて欲しかった。
しかしもう何もかも叶わぬこと。
全ては夢だった。そう、地獄のような日々の中で見た一炊の夢に過ぎなかった。
アスターシャの言う通り、レオンの妻はカタリナではない。
カタリナは身代わり。偽物の妻に過ぎないのだ。
あまりに幸せすぎで、穏やかすぎる日々がこれからも当たり前のように続くと思っていた。
「……っ」
込み上げる苦しみと絶望、そして腕の中についっさきまであったはずのマリアンヌの温もりとで、涙がとめどもなく溢れる。
男たちには聞かれたくないと思って唇が色が変わるくらい噛みしめるが、嗚咽を抑えきれなかった。
そんな泣き顔を見ながら、男がニタニタと笑う。
それからどれくらい経ったのだろうか。
ついさっきまで晴れていたはずの雲はにわかにかき曇れば、まるで夜のように辺りが暗くなった。
ぽつぽつと雨粒が、窓を叩く。
ゴロゴロと腹に響くような雷鳴が聞こえる。
馬車が急停車し、カタリナははっと我に返った。
「この辺りでいいだろ」
もう叔父夫婦の屋敷に到着したのだろうかと、カタリナが窓向こうの景色を見ると、そこは森だった。
(ここは、どこ?)
「さてと、お嬢さん。俺たちがあの小娘に命じられたことなんだがね、お前を殺せ、と言われたんだ」
「!」
「だけどな、あんたみたいに別嬪さんをむざむざ殺すのはさすがに、躊躇われるんだよなあ。俺たちだって人を殺すことに抵抗がない訳じゃねえんだ」
男の目の奥には、欲望の炎がちらつく。
カタリナが男と距離を取ろうとするが、狭い馬車の中だ。すぐに背中が扉にぶつかってしまう。
男が爬虫類のように瞬きの極端に少ない眼差しを向けてきたかと思えば、顎を乱暴に掴まれてしまう。
まるで自分がこれから、カタリナを支配する人間だと主張するように、自分から目を背けることを許さなかった。
「怯えるなって。俺の愛人にしてやるよ。あの女にはお前は死んだって伝える。そうすりゃ、万事解決。なあに。俺はこう見えても女には優しいんだ」
男が舌なめずりして、カタリナの唇を塞ごうと顔を近づけてくる。
全身に鳥肌が立つ。カタリナは思いっきり、男の股間を蹴り上げた。
「ぐぉ!?」
男が体のくの字に折った。
カタリナは扉の取っ手に手をかけると、転げるように馬車から飛び出す。
「て、てんめえ……!」
馬車の中から男の呻きが聞こえる。
カタリナは藪を掻き分けるようにして森の中に飛び込んだ。
「クソ女! そんなに殺して欲しいなら、ズタズタに引き裂いてやるよ!」
男の怒りに我を忘れたような絶叫が、響きわたった。
カタリナは夢中で走る。
顔を叩く雨粒は激しさを増す。
薄暗い周囲が一瞬昼間のように明るくなり、どこかで雷が落ちた。
息が切れ、足が鉛のように重たくなるが、足を止めれば待っているのは死だけだ。
涙がとめどもなく溢れ、視界が歪んだ。
カタリナは溢れる涙を腕で拭い、ただただ闇雲に走り続ける。
だが男たちの声は確実に近づき、そしてついに、男の手が届く。
「っ!?」
襟首を掴まれ、仰向けの格好で引き倒されてしまう。
乱暴に地面に倒された衝撃で咳き込んだ。
三人の男たちに取り囲まれる。
「殺すか?」
「その前に、男を舐めた仕置きをしないとなっ。さっきまでは優しくしてやるつもりだったが、こいつはとんでもねえじゃじゃ馬だ。自分が浅ましい女だってことをしーっかり、分からせねえと!」
男たちの手が伸びてくる。
「いや、や、やめて……!」
必死に抗うが、女の細腕で男三人を相手にまともな抵抗などできるはずがない。
むしろ抵抗することで男たちを楽しませてしまっている。
次の瞬間、どこからともなく飛んで来た矢が、男の一人の眉間を射貫く。
「げ、ぇ……」
男が白目を剥いて倒れた。
「なんだ、どこから……」
周囲を見回すもう一人の男の眉間をさらにもう一本の矢が射貫く。
「ひい!」
残された男は背中を向けて逃げ出すが、すぐに背中に矢を浴びて倒れた。
ガサガサと藪が鳴る音が近づいてくる。
意識が遠くなり、カタリナを包み込む音が小さくなっていく。
やがて、目の前が真っ暗に塗り潰されていった。