身代わり婚~光を失った騎士団長は、令嬢へ愛を捧げる
愛しい人(レオン視点)
レオンは寝返りを打つ。伸ばした腕に、マリアンヌが触れる。そのゆっくりと上下する小さな体の愛おしさに目を閉じたまま、唇を緩める。そして、そのさらに向こうにいるカタリナに触れようとして、そこにあるはずの柔らかさと温もりがないことに気付いて、一気に覚醒した。
「カタリナ」
そこにいるはずの妻の姿はなかった。
すでに朝日が昇り、しんと静まり返った森の中を、黄金色の日射しが照らし出していた。
「カタリナっ」
焦燥感に似た気持ちで名前を呼び、寝室を出て居間を覗く。
敵との戦いでも、こうまでして取り乱したことなどなかった。
部屋を飛び出したその時、耳に聞き覚えのある歌声が届く。
※
“太陽に向けて広げる翼
金色の階に乗り、蒼天に昇れ
日射しの温もりに癒やされ
自然の息吹に導かれて”
階段を駆け下り、庭へ飛び出す。
強張っていた全身から力が抜けていく。
「……カタリナ」
安堵のするあまり、その場に崩れ落ちてしまう。
日射しをたっぷり浴びながら、鳥たちの囀りと調和するように伸びやかな歌声を響かせていたカタリナが、驚いたようにこちらを見ると、駆け寄ってきた。
「レオン、どうしたの!?」
「ベッドにいなかったから、焦って探してたんだ」
「焦って……?」
「当然だろう。俺は一度、君を失ったんだから……」
「ごめんなさい」
「謝るな。謝るな。俺が勝手に慌てていただけだから。それより何をしていたんだ?」
「別に何をしているという訳じゃないの。あまりに気持ち良くて、歌いたくなったの」
「本当に歌が好きなんだな」
「ええ……母が一番最初に教えてくれたことだから」
「それに倣って、マリアンヌにもまずは歌を教えたほうがいいな。将来はお前のように美しい歌姫になれるだろう」
白い肌を朱色に染め、恥じらうように目を伏せた。
「いくらなんでもお世辞が過ぎるわ」
「本音なんだけどな。もっと自信をもて。カタリナの歌を聞かなかったから、俺はまだこの屋敷の片隅でウジウジと居座り、外に出ることを怖れていたんだから」
レオンは立ち上がると、カタリナを抱き寄せ、額にそっと口づけた。
「カタリナ」
そこにいるはずの妻の姿はなかった。
すでに朝日が昇り、しんと静まり返った森の中を、黄金色の日射しが照らし出していた。
「カタリナっ」
焦燥感に似た気持ちで名前を呼び、寝室を出て居間を覗く。
敵との戦いでも、こうまでして取り乱したことなどなかった。
部屋を飛び出したその時、耳に聞き覚えのある歌声が届く。
※
“太陽に向けて広げる翼
金色の階に乗り、蒼天に昇れ
日射しの温もりに癒やされ
自然の息吹に導かれて”
階段を駆け下り、庭へ飛び出す。
強張っていた全身から力が抜けていく。
「……カタリナ」
安堵のするあまり、その場に崩れ落ちてしまう。
日射しをたっぷり浴びながら、鳥たちの囀りと調和するように伸びやかな歌声を響かせていたカタリナが、驚いたようにこちらを見ると、駆け寄ってきた。
「レオン、どうしたの!?」
「ベッドにいなかったから、焦って探してたんだ」
「焦って……?」
「当然だろう。俺は一度、君を失ったんだから……」
「ごめんなさい」
「謝るな。謝るな。俺が勝手に慌てていただけだから。それより何をしていたんだ?」
「別に何をしているという訳じゃないの。あまりに気持ち良くて、歌いたくなったの」
「本当に歌が好きなんだな」
「ええ……母が一番最初に教えてくれたことだから」
「それに倣って、マリアンヌにもまずは歌を教えたほうがいいな。将来はお前のように美しい歌姫になれるだろう」
白い肌を朱色に染め、恥じらうように目を伏せた。
「いくらなんでもお世辞が過ぎるわ」
「本音なんだけどな。もっと自信をもて。カタリナの歌を聞かなかったから、俺はまだこの屋敷の片隅でウジウジと居座り、外に出ることを怖れていたんだから」
レオンは立ち上がると、カタリナを抱き寄せ、額にそっと口づけた。