結婚不適合なふたりが夫婦になったら――女嫌いパイロットが鉄壁妻に激甘に!?
迷いに迷ったトランジット
デスクにずらりと四台並んだモニターにはASAS――アジア地上解析図や高層天気図、エマグラム――気温・湿度・風向・風速などの観測データを示した断面図などが表示されている。
史花は三十分ごとに発表されるMETAR――定時飛行場実況気象を参照しながら、それらの気象図と照らし合わせ、羽田空港から福岡空港へ向かう航空機のフライトプランを作成中である。
(飛行予定エリアはおおむね高気圧圏内ね。悪天候の目安となる湿域や等圧線の収束帯もないし……乗客数や荷量もこの程度なら、余分な燃料を積む必要はなさそう)
専用システムで作成したフライトプランにデジタル署名をし、運行管理センターへ送信した。
史花が働くフライトコントロールセンターは、世界中を飛行する『オーシャンエアライン』の航空機の運航を管理するセクションである。
史花はそこで航空機の運航管理を行う航空機運行管理者、通称ディスパッチャーとして働いている。
大学卒業と同時に入社後、運行支援者としての訓練を積むこと四年弱。二十六歳のときに国家資格を取得し、社内審査の合格を経て、来月の五月には丸一年を迎える。
支援者として運行管理者のアシスタントをしていたときとは違い、フライトプランに自分のデジタル署名が入るため責任は重大。一日に五十便ほど作成するフライトプランは、慎重さをなによりも大切にしている。