ソレが出て来る話を聞かないでください
「今日は休みです」
悟志が息をするように嘘をつき、テーブルの前へと移動します。

私も悟志の隣に座り出されたお茶をひと口飲みました。
温めのお湯でしっかりと味のついたお茶でした。

私にお茶の良し悪しはわかりませんが、普段家で飲んでいるものよりも美味しかったです。
「そうなの」

絵里のお母さんは信じていない様子でしたけれど、なにも聞いてきませんでした。

「あの、こんなことをお願いするのはおかしいかもしれませんが、絵里の持ち物をなにかひとついただくことはできませんか?」

湯呑の中が半分に減った頃、悟志がそう切り出しました。

今回は昔話の出所を探りにきたはずですが、絵里のお母さんに直接質問するつもりはないようです。

娘が亡くなってそれほど日も経っていないのに、あんな妙な昔話を聞かせる気にはなれなかったのかもしれません。

「あぁ、もちろんいいわよ」
絵里のお母さんはシワが深く刻まれた目元を細めて頷いてくれました。

こうして対面して相手の顔をマジマジと見ていると、一気に老け込んでしまったことがわかります。
それくらい絵里のお母さんは心労を重ねているんだと思います。

葬儀中の噂話で聞いたことが本当だとすれば、絵里は他殺。
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