鏡映しのマリアージュ
◯同時刻・2年5組の教室

教室の隅の方で机をくっつけ合う雫と小梅。

雫「そのまさかなの」

小梅は信じられないといった表情で顎に手を当てて考え込む。

小梅「一応確認なんだけど、優木兄がお姉さんに好意を寄せているという事実が勘違いってことは」
雫「17年の付き合いだもん。そこは信頼してもらって大丈夫だと」
小梅「なんとも切ない自信だ」

酸っぱい顔をする小梅に、雫がぽそりと呟く。

雫「正直このまま諦めたほうがいいのかな、って」
小梅「なんで?まだ両思いとは限らないんでしょ」
雫「そう、なんだけど……」

意気消沈した様子で髪の毛の先を弄る雫の目に、食堂帰りで仲良く廊下を歩く蕾と凪の姿が目に入る。すれ違う同級生に手を振り、なにやら話しながら笑い合う2人に、雫は思わず目を逸らす。

雫(やっぱりお似合いだなあ、どんなときでも晴れやかで)
雫(照らしてもらってばかりの私なんかじゃ分不相応。身のほどをわきまえるのも大事…2人のためにも、きっと、私のためにも)

◯後日・2年2組の教室

帰り支度をする蕾に実琴が「つぼみ~ん!」と元気よく飛びつく。

実琴「さっきみんなと話してたんだけどさ、今度一緒に映画行こーよ!!」
蕾「行く行く!何系?」
実琴「お涙頂戴心震える恋愛ストーリー」
蕾「いいねいいね~」

きゃいきゃいと盛り上がる会話を聞きつけたのか、近辺を掃除していた堺(蕾のクラスメイト。生真面目そうな雰囲気が漂う短髪の男子。バドミントン部部長)が男子3名の腕を引っ張ってやって来る。

堺「はい!オレらも行く!行きたいです!!」
実琴「は?前誘ったときは興味ないとか抜かしてたじゃん」
堺「今まさしくこの瞬間に意欲が湧いたんだよっ」

必死さを感じさせる堺の様子にこころが半笑いで蕾に囁く。

こころ「堺、完全に蕾狙いだよね。あんなわかりやすいことある?」
蕾「仮にそうだとしてもただの一時の気の迷いでしょ」

淡々と返す蕾は、近くの映画館のサイトで上映作品一覧を検索する指を唐突に止める。

蕾(はあっっっっっ!!!)

両目と口を全開にした蕾は、反射的に投げ出してしまいそうになったスマホを両手で持ち直す。画面上にはアイドリズムプリンスの劇場版の作品案内が、きらびやかなキービジュアルと共に表示されている。

蕾(そっか、来月にはアイドリ初の映画公開してるんだ……!リアルタイムで作品を追えるこの喜び!これを多幸感と言わずしてなんと言う!?)

心の中で発動させたオタクモードがニヤけとしてやや外に漏れ出てしまっている蕾のスマホの画面を、こころが不思議そうに覗き込もうとする。

こころ「なんかいいことでもあった?」
蕾「なッなんでも!」

光の如き速度で画面をスクロールして証拠隠滅を図る蕾に、こころは「急に暴れるじゃん」と小さくツッコむ。

◯学校から家までの帰路
人の行き交う駅前を1人で歩く蕾は、くうっと顔を歪める。

蕾(やってしまった、絶対こころに変な子だと思われた・・・…)

力なく足を前に進める蕾は、公園のベンチに座って小学校中学年ぐらいの男の子2人が頭を突きつけ合って愉快そうにカードゲームをしている横を通り過ぎる。

男子①「見ろよこのカードちょーカッコよくね?」
男子②「わー!なんていうキャラクター!?」

眩いばかりのあどけない笑顔にふとあることに気付く蕾。

蕾(好きなことを好きだと胸を張って言うこと。小学生でもできる簡単な所業がなぜ私にはできないのか。大切な友達にすら素直になれない己の臆病で脆弱なメンタルが心底嫌になる。あーもう可愛くない奴だなぁほんと!)

鬱々としかける気分を振り払うようにグルングルンと首を回す蕾の視界に1軒のゲームセンターが入り込む。自動ドアの先にそびえ立つクレーンゲームの景品に、蕾は瞬発的に食いつく。迷わず入店した蕾は一台の機械にベタリと張り付く。

蕾「え、えー、えー!?」

歓喜と困惑の入り混じった声を上げる蕾の視線は、景品として積まれているアイドリのキャラクター達の手のひらサイズのぬいぐるみに注がれている。

蕾(碧くんもいるじゃん~!てかみんな再現度高っ!!)

一応360度見渡し周囲に知人がいないことを確認した蕾は、躊躇うことなく機械にお金を入れ、アームを操作する。しかし、何度やってもアームは色とりどりの山に掠るだけで1つも出口まで運んできてくれない。

蕾(興奮のあまり忘れてた……自分が極度の不器用であるというを揺るがぬ事実をっ!)

レバーにしがみついて絶望する蕾の背後に不意に人が現れる。

明「うおっ」
蕾「あ、明……って!!」

見慣れた幼馴染の後ろから顔を出す原仲の存在に気付いた蕾は慌てて機械から飛び退く。

原仲「えーと朝比奈姉妹の……どっちだっけ?」
明「姉の方。蕾、こんなところで何してんの?」
蕾「んえーっとそのー」
蕾(とりあえずよく知らん人に暴露はできまいっ)
蕾「あっあの景品が可愛いなって思って見てただけ!それじゃ!」

お目当てのクレーンゲームとは真反対の方向を指差して逃げるように店から出ていく蕾。取り残された2人は蕾が指し示した方向へ目をやる。そこには巨大おつまみセットが設置された機械が。

原仲「ビーフジャーキが可愛いって、独特の審美眼持ってんねあの子」
明「んー……」

釈然としない表情の明はアイドリの機械にふと気が付くと、「あ」と小さく声を漏らす。

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