こじらせて、こじらせるほど。
「あー、実は…友達から結婚報告と妊娠報告きてたんだけど、すっかり返すの忘れちゃってて…それを出勤途中の車の中で思い出して、今慌てて返信してるとこ。結構時間たっちゃっててさ…」
イヴ・サンローランだぁ…と思いながら、私は菜結ちゃんに言い訳がましく説明した。
出勤した時間が少し早めでまだ誰も来て居なかったので、とりあえずトイレで返信作業に取り掛かってしまったわけだが。もしかして、朝の掃除はもう完了してしまっただろうか。
「あー。そういうLINEって、なんかいつも以上に早く返信しなきゃいけない感じですもんねぇ」
ただ、そう言う菜結ちゃんの声に私を責めるような色はなく、私は少し胸を撫で下ろしながら「あっ、女子トイレは今から私が掃除するからさ」と付け足した。
直属の後輩であり、美人の菜結ちゃんにはなんだか嫌われたくないのである。
「私も掃除しますよ。ってか、やっぱり多いです?」
「ん?何が?」
「29才って。やっぱり結婚とか妊娠とか、多いですか?」
「…あー。まぁ、そうだねぇ。特に結婚は最近多いかなぁ」
「ですよねぇ」
リップを塗り終わり、それを注意深く鏡で確認する菜結ちゃんは、分かりきっていたことのように頷いた。
菜結ちゃんも私と同じく独身である。とはいっても、私より3個も下の26才なわけだけど。