ホスト、田舎娘に振り回されてます!〜恋のプロが、ウブなアイツに本気になったら〜
イ○ゲームに巻き込まれる
桃乃と朔は、気がつけば見知らぬ部屋にいた。
青いジャージを着せられ、胸元には番号がプリントされている。
「……これは、どういう状況でしょうか?」
「さあな」
桃乃が困惑しながら朔を見ると、彼は相変わらず冷静そのものだった。周囲には同じような格好の参加者がざっと百人ほど。みんな一様に怯えた顔をしている。
そこへ、ピンク色のフードをかぶった謎の男たちが現れた。
「皆さん、ようこそ。ここから始まるのは、生死をかけた『イ○ゲーム』です」
おお、あの某ドラマを完全にパクっているな、と桃乃は思った。
「最初のゲームは、『だるまさんがころんだ』です」
参加者たちは一斉にざわついたが、桃乃はむしろホッとした。だるまさんがころんだなら、田舎の子ども時代に何度もやった経験がある。
「楽勝じゃないですか?」
「いや、たぶんそういう問題じゃない」
朔が視線で示した先には、どう見ても自動砲台が設置されていた。つまり、失敗したら撃たれる仕様なのだろう。
「こわ……」
ゲームが始まった。
「だーるまさんが、こーろんだ!」
「ここは日本語なんですねえ」
桃乃はノリノリである。
「お前少し黙れ」
巨大な人形が振り返り、誰かが少しでも動けば機銃掃射が飛ぶ。数人が即座に脱落した。
しかし、ここで桃乃は田舎仕込みの「スルリ移動」を発動。地元の子どもたちが編み出した超省エネ動作で、全身の揺れを最小限に抑えながら進むのだ。
そして朔は朔で、ホストらしい滑らかな所作で動きを隠す。
「いや、ホストの動きがここで活きるって何?」
「ブレーキの利いた動きが得意なんでな」
最終的に二人とも見事にゴール。
次のゲーム、「型抜き」では、桃乃はなぜか「みかんの皮をきれいに剥く要領」で三角の型をサクサク削り、朔は「グラスの底に氷を溶かして円を作る要領」で精密にクリア。何かと日常スキルを応用しすぎて、運営側の人間がざわつき始めた。
「え、なんであんな簡単そうにやってるの……?」
「この二人、ゲームの緊張感理解してる?」
極めつけは三つ目のゲーム、「綱引き」だった。
「桃乃、お前どれくらい力ある?」
「果樹園の収穫作業やってたので、そこそこ……」
敵チームのムキムキの男たちを前に、桃乃と朔は息を合わせた。
「せーのっ」
ズルッ。
二人が強すぎて、一気に相手を引きずり倒してしまう。もう少し手加減するべきだったと二人は思った。
最終的に、あまりにもトラブルが頻発したせいでゲームマスターが激怒。
「もういい!お前ら帰れ!」
強制送還された二人は、ホストクラブのソファでオレンジジュースをすすりながら、ぼんやりと振り返った。
「……なんだったんでしょうね、あれ」
「さあな」
桃乃と朔は、日常へと帰還したのであった。