※修正予定あり【ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ〜イケおじの溺愛がとまらない!?〜】

夢みるAカップ


 桃瀬理乃(ももせりの)、十九歳からの本日二十歳(はたち)、高卒後に流通会社の事務員へ就職、彼氏なし、ひとり暮らし二周年の誕生日、デパートの下着売場でサイズの合わないブラジャーを購入した。

 買いもの袋にはブランド名の単語がつづられていて、高級店に立ち寄ったことを主張している。使い道のない(からだ)に自虐的な意味をこめて、年に数回、そんな無駄づかいをする彼女は、男との快経験がない、いわゆる処女(バージン)である。異性にふり向いてもらえないのは、「胸が小さいから」なんて()い訳はしない。

 桃瀬は、生まれつき目が細くて鼻筋は低く、(くちびる)のかたちも両端は下がり気味で、ぼんやりとした顔の印象を受ける。美人の部類でないことは明白につき、前髪を垂らして顔を隠す癖があった。


「お嬢さん、いま帰り?」


 ふいに声がかかって顔をあげると、同じアパートの階下(かいした)に住む石和(いさわ)という苗字の男が、書類かばんを下げて立っていた(名前は忘れた)。三十代後半といった雰囲気で、身だしなみは、ごく一般的なスーツ姿である。結婚指輪は()めていない。

「こ、こんばんは……」

 桃瀬はペコッと会釈をすると、玄関の鍵をあけてなかへはいろうとしたが、手持ちぶさたなようすで(たたず)む人影が気になった。いちどのぼった外階段をおりてゆき、ブロック塀にもたれる石和に近づいた。

「あの……、どうかされたんですか?」

 おずおず話しかけると、相手は少し驚いた表情をして、笑みを浮かべた。

「鍵を、どこかに落としてしまったようでね。途方に暮れている」

 親しみやすい態度を示す石和は、スーツを手さぐりしてみせた。予備の合鍵もないらしい。遅い時刻になって大家さんへ連絡するのは気がひけるといって、アパートに背を向けた。今夜は、どこかのビジネスホテルに泊まるのだろうか。さいわい、現在地は最寄(もよ)り駅に近く、隣町へ行けば、二十四時間営業の施設が立ち並んでいる。

 前日に買ったショートケーキをひとりで食べるつもりだった桃瀬は、舗道を歩きはじめる石和をひきとめた。

「ち……、ちょっと待ってください。もしよかったら、わたしの部屋に泊まってください。その……、夜ごはんがまだでしたら、いっしょにケーキを食べませんか? わたし、きょうが誕生日で、ひとりより、誰かと過ごしたいなって……」

 思えば大胆な提案だが、石和は「それはありがたい。お誕生日おめでとう」と、すんなり応じた。アパートまでひき返すと、石和は「おじゃまします」といって革靴を脱いだ。靴箱の上に放置してある郵便はがきに目をとめ、「桃瀬さんの下の名前って……、理乃ちゃん?」と気安くたずねた。

「はい、そうです」

 部屋の電気を()けてふり向いた桃瀬は、ネクタイを(ほど)く石和と目があった瞬間、いまさらのように、ドキッと胸が高鳴った。せまい台所に立ち、湯を沸かす。冷蔵庫からケーキを取りだして切り分けるあいだ、かれこれ一年以上同じアパートに住む石和について思考をめぐらせたが、どこへ勤めているのか、妻子(さいし)の有無など、個人情報はないに等しかった。それは、他の部屋の住人も同様である。ひとつ屋根の下の共同体でも、とくに馴れあわず、顔を見たら挨拶を交わすていどで、互いに干渉(かんしょう)しない。

 興味本位でききだすのは失礼かと思い、ケーキを皿に乗せると、銀のフォークを添えて運んだ。

「プレゼント、なにをもらったの?」

 絨毯に(すわ)って膝を立てる石和は、ブランド名がつづられた紙袋を指さしてきく。桃瀬は、まずいと思った。部屋にはいってすぐ、クローゼットにしまえばよかったものを、壁ぎわへ置いたまま台所に移動した。しかも、中身はサイズの合わないブラジャーである。

「そ、それは……、ひみつです!」

 ふざけた事実を告げるわけにもいかず、その場かぎりの嘘をつく。ぎこちない動作で台所へもどると、薬罐(やかん)の湯気で顔が熱くなった。


✦つづく


※物語をお読みくださり、誠にありがとうございます。こちらの作品は10万字以下の中編です。また、H描写の事前予告なしにつき、読み進める際はご留意ください。暴力シーンなどはありません。

※いろいろ試した結果、アプリ版ではルビが振れないため、フリガナが(かっこ)表記で読みにくいかと思われますが、何卒ご容赦ください。

※他サイト掲載時より、過激な描写部分を修正して投稿しています。
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