君を思うと、胸がぎゅっと痛くて
しばらくして、アキ先生は聴診器を耳から外した。
その一つ一つの仕草が綺麗すぎて、またドキドキする。

「さゆ。薬は飲んでる?」

「うん。飲んでますよ」

「そっかぁ」

そう言いながら少しだけ影がある険しそうな顔をしたのを、私だけは見逃さない。

「今日は親御さんは?」

「母は帰ってこないかも。この時間になってもいない時はだいたい会社近くの別のアパートに泊まるみたいです。忙しいときとか」

「そっか。じゃあ俺、泊まっていい?」

「はい、って、え、えぇ!?!?!?!」

アキ先生はうるさすぎと耳を塞ぐ。

「どうせ明日は約束通り朝から出かけるし。いいだろ別に」

「ま、まぁ、あの、特に問題は何も無いです」

「さゆ、ご飯は食べたの?」

「まだ……」

「じゃあまたとりあえずファミレス行こう」

アキ先生は優しく手を差し出す。
私も、手を差し出そうとしたけど、あと数センチのところで、手を下ろした。

「先生、変わった」

「そうか?」

「そうだよ。前は怒ってばっかで。私のことなんて嫌いなんだって。ううん。小さい時みたいに可愛くないから素直に言うことも聞かないから嫌いになっちゃったんだって。だからそこまでしてくれなくていいんだよ。大丈夫」


「はぁ……全く」


アキ先生はそう言ったと同時に私の身体を強く抱きしめて来た。
あと数センチの隙間なんて、最初からなかったみたいに。


「どこが大丈夫だって? こんな夜に俺を呼び出して、心がこんなに震えて、全身が俺を求めてるくせに」


また胸がぎゅっとした。
どうして。
どうしていつも私が欲しい温もりをくれるの?

「アキ先生……!!」

「ほら。好きなだけ泣け。もっと泣け」

アキ先生は頭を優しく撫でて、抱きしめてくれる。
ずるいよ、こんなの。
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