君を思うと、胸がぎゅっと痛くて
後で荷物をまとめて奏の家に向かうと告げて、奏と分かれた。そして自分の家に帰ることにした。
リビングに着くと、珍しくお母さんが先に帰っていた。

「あら、さゆおかえり」

「うん。ただいま」

「色々あったんだってね。奏君とお母さんからも聞いてるわ。さゆ、家に居たかったらいつでも帰って居てくれていいし、奏君の家に居たいなら行きなさい」

「お母さん……なんでそんなにあっさりしてるの」

お母さんはお父さんの遺影を持って、優しく眺めながら言った。

「だって、好きな人とはずっと一緒にいたいじゃない」

「お母さん……そうだね」

「もう時間が無いなら、尚更」

「お父さんもそう言ってたの?」

「……そうね。そろそろ、話してもいいかな」

お母さんは一息ついて言った。

「お父さんはね、死ぬその瞬間まで諦めなかったわよ。私とさゆに愛してるって態度で、言葉で、全てで伝えてくれた。ねぇ、人ってね簡単に死ねないの。苦しむのよ。そんな中でも、貴方のお父さんは最後まで負けなかった」

「お父さんは、最後まで負けなかった……」

「お父さんはね、さゆが自分と同じ病気で同じ運命を辿ると知った時もこう言ってたわ。『奇跡は必ず起きるよ。さゆの大切な人にその想いが届きますように』って」

「うん。私の大切な人に届けたい。私もお父さんみたいにちゃんと最後まで生き抜きたい!」

お母さんは私を抱きしめて言った。

「さゆ、行ってらっしゃい。ここはいつでも貴方の帰る場所だからね」

「うん。お母さん。ありがとう」

私は自分の部屋で荷物をまとめた。
必要なものは都度取りに来ればいいし、そう思うと意外と多くなくて。
小さなバッグひとつにとりあえずの荷物をまとめて、私は奏の家のインターホンを押した。
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