Music of Frontier
「あ…あぁ…」

気がつくと、俺は久々に喉から声を出していた。

あまりに久し振り過ぎて、喘ぐような嗚咽だけで、喉が痛くなったほどだ。

「あぁ…あ…」

「…思い出した?…思い出したね」

手紙とも呼べない小さなメモ用紙を握って、身体を震わせている俺を。

エインリー先生が、そっと背中を撫でてくれた。

「あ…う、ぐっ…」

あのとき、俺は色々言おうとしていた。

真っ暗の世界で、ようやく一筋の光を見つけた。

暗闇に溶けてぼやけていた、自分という存在の輪郭を。

ようやく、はっきりと捉えた。

魂の抜け落ちていた身体の中に、命が戻ってきたのだ。

頭の中に、色んな疑問が次々と浮かんできた。

ここは何処なのか。今は何月何日なのか。

ルクシーは何処にいるのか、彼は何処まで知っているのか。

俺は今までどうなっていたのか、今はどうなっているのか。

それらの全ての疑問を聞こうとして、声を出そうとした。

でも。

「あ…ぐ、あぁ…」

上手く言葉にならなくて、酷くもどかしかった。

「うん、大丈夫だからね。無理に喋らなくても、分かってるから」

エインリー先生は、優しく頷きながらそう言った。

「良かった。ちゃんと戻ってきたね…。ルクシー君の気持ちが、やっと君に届いたね」

「…!」

ルクシー。そう、思い出した。

何で今まで忘れていたのか。その名前を。

俺には、いたのだ。まだ。

俺を望んでくれる人が。俺が生きていてくれることを望んでくれる人が。

俺がまた戻ってくることを…信じて待っていてくれる人が。

…いたんだ。

心が震えた。自分はまだ一人ぼっちじゃなかったんだ。そう思うだけで、堪えきれないものが込み上げてきた。

「…あぁ…ぅ…」

顔を抑えて、肩を震わせた。

涙なんて…もう、ずっと流したことなかったのに。

次々と、泪が溢れて止まらなかった。

「…よしよし、大丈夫。よく頑張ったね…」

エインリー先生は、俺が泣き止むまでずっと、背中をさすってくれていた。






…涙で、くしゃくしゃになった小さなメモ用紙。

それが、俺をこの世に引き戻してくれたのだ。



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