Music of Frontier

sideルトリア

─────…そのとき、俺は。

正直なところ、ルクシーが何を言っているのか分からなかった。

音楽とか、バンドとか、そんなことは俺の世界からかけ離れた場所にあるものだった。

あの頃、俺の世界にあったのは帝国騎士になることだけで、それ以外の選択肢なんてなかった。

自分が帝国騎士以外の何かになれるなんて、思ってもみなかったのだから。

「…」

俺は何て言って良いのか分からなかった。

ルクシーが冗談を言ってるんじゃないのは確かだ。

バンドってのが何なのか、俺にはよく分からないが。

「割と楽しいぞ、まだメンバー足りてないけど…。他のメンバーも良い奴だし。やってみないか?気晴らしになると思う」

「…」

「初心者でも大丈夫だ。これから練習すれば良いし…。ルトリアは器用だし物覚えが良いから、今から楽器を始めても、上手くなると思うよ」

「…」

「…ルトリア、バンドって何か知ってるか」

…残念ながら。

俺はふるふる、と首を横に振った。

「前聴かせてやったことがあるだろ?俺の家に来たとき…CD」

「CD…」

「テレビで観たことないか?ギター弾いたり、ドラム叩きながら歌ってるアーティスト…」

…あぁ、そういえば。

ルクシー、好きなんだって言ってたな。いつかライブに行きたいって。

いつか、一緒に観に行こうって。

あんなことやってるんだ。ルクシーは。

「…一緒にやってみないか。俺と…俺達と」

「…」

「上手く出来なくても…。つまんなかったらやめても良いから」

「…」

「…」

ルクシーは一生懸命に誘ってくれていた。それは分かる。

でも、俺には返す言葉が見つけられなかった。

「…ってのは、まぁ…建前なんだよ、ルトリア」

ルクシーはぽつりと呟いた。

「…お前に目標を持たせてあげられるなら、それで良いんだ…。ルトリア、俺はな…お前にまた、元気を取り戻して欲しい。新しい…人生の、夢を持って生きて欲しいんだ」

「…俺には、もう夢なんてありませんよ」

と言うか、始めからそんなものはなかったのだ。
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