Music of Frontier
四人の手を借りながら。

引っ越し作業は、丸一日かかった。

お昼はコンビニのおにぎりで誤魔化して、足の不自由な俺に代わって、皆が家具や家電を運び込んでくれた。

ベーシュさんなんて、クローゼットを一人で持ち運ぼうとしていた。

中身が入ってないとはいえ、その大きさのクローゼットを一人で運ぶなんて。

あまりに危な過ぎる、と俺は必死に止めたのだが、ベーシュさんは何故止められるのか分からないらしく、きょとんとしていた。

『frontier』で唯一の女性メンバーであるベーシュさんは、男よりも力持ちであることが分かった。

さすがに皆にばかり重いものを運ばせるのは申し訳なくて、俺も手伝おうとしたものの。

「その足で無茶をするな」とルクシーに怒られた。

それでもやっぱり申し訳なくて手伝おうとしたら、「大人しくしてないとロープで椅子に縛り付けるぞ」と怒られた。

目が本気だったので、俺は大人しくしていることにした。

本当助かります。







「ふぅ…。よし、これでとりあえず住めるだろう。ルトリア、気になるところはないか?」

「何もないです。ありがとうございます、皆さん」

ここまでしてくれたというのに、これ以上文句を言ったら、バチが当たる。

「ルトリーヌ、今日から独り暮らしかぁ~。この部屋お化け出ねぇかな?ルトリーヌ、お化け大丈夫なタイプ?」

エルーシアが、とんでもないことを言い始めた。

ちょっと。嫌なこと言わないで。

「大丈夫じゃないですよ…。やめてください、縁起でもない」

「うひひっ。なんか出たら夜中に電話してくれて良いぜ」

分かった。じゃあ夜中に何かが出たら、エルーシアの携帯に電話するよ。

…何かって何?何も出ないよ。

…多分。

そういう部屋ではないと思うんだけどな…。比較的まだ新しいし。

でも、実はこのアパートがここに建つ前は、お寺がありました…とか。

…ないない。ないよそんなの。

ないと信じよう。

「あぁ、そうだルトリア。これあげる」

「えっ?」

お化けの心配をしている俺に、ベーシュさんが何やら、ずっしり重いビニール袋を渡してきた。

何これ?

「独り暮らしと言えばこれかなと思って」

「これ何…え、缶詰?」

ビニール袋には、色んな缶詰がぎっしり入っていた。

鯖の水煮、ツナ缶、コーン缶、桃缶、コンビーフ缶などのメジャーな缶詰から。

鹿肉缶、羊肉缶、果てはトド肉缶なんてものもあった。

トドって。俺食べたことないんだけど。

よく見たら、某世界一臭いと言われる缶詰まで入ってる。

ベーシュさん、これはどういう…。俺への嫌がらせ…って訳じゃなさそうだが。

「…えっと。ベーシュさん…これは…」

「私が今まで食べて美味しかった缶詰。色々持ってきたの」

え?これ食べたんですか?

「独り暮らしと言えば缶詰かなと思って」

「あ…そうですか。ありがとうございます…。いただきます」

まぁ…あの、食べられないものは入ってないだろう。多分。

すると、次にミヤノが。

「俺からも、プレゼント」

「え…ありがとうございます」

ミヤノまで。皆気を遣わせてしまって大変申し訳ない。
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