Music of Frontier
こうして始まった、写真集の撮影。

スタイリストさんが選んだ格好良い服を着せられ、カメラさんが指示するあらゆるポーズを取らされた。

売り場に飾られているマネキンの気持ちが分かった。

「服、選んでくれるのは嬉しいんですけど…。全然似合ってない気がするんですよねぇ…」

「大丈夫だ。ちゃんと似合ってるから」

撮影の合間に、俺はルクシーとお喋りしていた。

ミヤノもエルーシアもばっちりと格好良い服を着こなして、ばっちりとポーズを決めているというのに。

俺はさっきから、「顔がひきつってますよ」とか「その強ばった表情を何とかしてください」とか、駄目出しばっかり。

何とかしてくださいって、俺の方が何とかして欲しいよ。

「贅沢言ったら駄目だぞ、ルトリア。その服、上着だけで20万円するそうだからな」

「にじゅ!?えぇっ?」

思わず大きな声が出て、撮影中のカメラさんにキッ、と睨まれた。

静かにしてなさい、の意だ。

慌ててごめんなさいと謝り、声をひそめる。

「…本当なんですか、20万って」

「本当らしいぞ。ユーリアナが言ってた。…その服に限らず、今回撮影に使う服は全部、名のあるブランド店から宣伝目的を兼ねて借りてきてるらしい。気に入ったのがあれば買い取って良いそうだが」

「買い取る訳ないじゃないですか…。そんな高いの…」

俺の普段着知ってるか?

全部、ファッションセンターイマムラだぞ。

イマムラコーディネート舐めるなよ。

「そんな高い服だったとは…。さっきまで『なんかこのデザイン変じゃない?』なんて思って済みませんでした…」

「そんなこと思ってたのかよ…」

そんなに高い服だったなんて、知らなかったんだもん。

えっ?じゃあもしジュースとか溢して汚したら、買取りさせられるの?

怖っ。おちおち水分補給も出来ない。

俺の身体は汚れても、服だけは汚さないようにしないと。

破産するよ俺。三ヶ月くらい素パスタと缶詰しか食べられない。

…元々、素パスタと缶詰しか食べてないけど。

「にしてもベーシュさん、元々綺麗ですけど、ああして着飾ると本当に美人ですよね…」

「そうだな」

ミヤノとエルーシアの撮影が終わり、次にスタンバイしていたベーシュさんが、カメラの前に立った。

彼女はバンドやらなくても、モデルさんとして充分やっていけそうだな。

超綺麗だもん。

「『frontier』じゃなくて…ベーシュさんの写真集にした方が売れたのでは…?」

「一理あるが…。それだと男しか買わんだろ。『frontier』は女性ファンの方が多いからな」

「そうか…。ミヤノファンですね?」

「いや…ルトリアファンだと思うが…」

気を遣ってくれなくて良いのよ。

俺のファンなんて、全国でも稀に見るレアキャラだよ。

私ゲジゲジ大好きなんです!って人、周りにいるか?いないだろ。滅多に。

それと同じくらいレアキャラ。

「ルトリアはもう少し…自分に自信を持てば良いものを…」

ルクシーは俺に聞こえないように、ぽつりと何かを呟き、溜め息を漏らしていた。
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