Music of Frontier
…正直、ルトリアに言いたいことは山のようにある。

文字に起こしたら、この小さいメモ用紙、百枚くらい軽く使えるくらいには。

俺が書きたいことと言ったら、例えば、

「お前の人生、まだ終わった訳じゃないだろ」とか。

「俺はお前の味方だから、もっと頼って良いんだ」とか。

「自分の体調にだけ気を遣って、今はゆっくり休んでくれ」とか。

そんな感じの、慰めと励ましが七割。

残りの三割は、説教だ。

「勝手に死のうとしやがって、この馬鹿」とか。

「いい加減面会拒否やめろ。引きこもりかこの馬鹿」とか。

「お前、ちゃんと飯食えよ。残すんじゃねぇ、この馬鹿」とか。

とにかく、「この馬鹿!」って言いたい。

こちとら、胃に穴が開くほど心配させられてるんだからな。

「この馬鹿!」くらいは許されてしかるべきだろう。

等々、ルトリアに言いたいことを考えていたら、埒が明かない。

ってか、この小さいメモ用紙には、とても書ききれない。

ちっちゃい字でちまちま書いても、多分ルトリアは読めないだろう。

あいつの今の精神状態で…読める文字の限度と言ったら…。

…精々、20文字程度…か?

20文字でも、読んでくれるかどうかは微妙なところだ。

文章にしたら…まぁ、一行くらいだよな。

この一行の中に、慰めと、励ましと、それから説教を込めなければならないとは。

いかな文豪でも不可能だろう。そんなことは。

少なくとも、俺には無理だ。

自分の文章力のなさが恨めしい。

いや、20文字程度じゃ、最早文章力云々の問題ではない。

出来るだけ簡潔に…読みやすい大きな字で。

ルトリアが元気を出してくれるような…そんな手紙を書かなくては。

…何て書こうかな。

「…うーん…」

俺は頭を悩ませた。あの馬鹿、俺がこんなに悩んでることも知らないんだろう。

良い気なもんだ、全く。絶対出てきてもらうからな。

一晩中、明け方になるまでずっと考え続け。

書いては捨て、書いては捨てを繰り返し。

足元に、くしゃくしゃに丸められたメモ用紙が散乱していた。

そして、夜が明ける頃。

俺はようやく、ルトリアへの最初の手紙を書き上げた。

…色々悩んだけど、やっぱり一番伝えたいことを、簡単な言葉で書いた。

もしかしたら、エインリー先生にボツを食らうかもしれないけど。

まずは、これを持っていくことにしよう。
< 90 / 564 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop