遣らずの雨 下
オゾンドグロッサム

特別な存在



『‥‥‥‥‥ガチガチじゃん。』


「‥‥‥い、いいの、放っておいて。」



とはいいつつも、
昨日は全然眠れなかった‥‥


大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせれば
言い聞かせるほど目が冴えてしまって、
夜中まで眠れず本を一冊読み終えて
しまったほどだ。


いつも通り鉢植えに水やりを終えて、
普通にしてるつもりでも、凪には
やっぱりお見通しのようで、半分
呆れた顔をしている


『今日は俺のクライアントなんだから、
 お前はこっちで店番。』


「痛っ!」


思いっきりデコピンをくらわされ
オデコを押さえると、フッと笑った凪
は工房へ行ってしまった。


あの日から本当に毎日朝と夜は一緒に
食事を取り、相変わらずそんなに話は
しないものの居心地良く過ごしていた


凪は朝はランニングと筋トレをしていて
プロテインを飲んでいるから、
メインは夕食で、お昼のお弁当は
相変わらず作っている


本当に何にも文句を言わないんだよね‥


好きな食べ物とか聞いたら答えて
くれるのだろうか‥‥


窓とショップのドアを開けると、
気持ちのいい日差しに水撒きをし、
訪れるお客様の接客をこなしながら
過ごしていた


週末だから忙しいな‥‥‥


凪も重たい鉢植えを運ぶのは手伝って
くれるけど、他の時間は納期がある
家具の制作に追われていた為、なるべく
自分でやれる事はやらないと‥‥


「ありがとうございました。」


ふぅ‥‥今日はお昼休憩も空いた時間に
裏でさっと済ませないとダメかな‥‥


凪のお弁当だけいつものテーブルに
置いておこう。


『こんにちは。』


ドクン


‥‥‥ッ‥‥酒向さん


紫乃さんか酒向さんどちらが来るか
正直知らないままでいたけれど、
どうしようもなく胸が締め付けられる
相手が笑顔で立っていて一瞬目頭が
熱くなりかけた


「こんにちは。凪が工房で待ってます。
 表の入り口からどうぞ。」


相変わらずの色素の薄い整った容姿と
背丈に、店内にいるお客様もみんな
チラチラと目を向けている


酒向さんが目立つのは相変わらずだな‥


なんか初めてneLuで会った日が
昨日のことのように思い出される


『‥新名』
『すいませーん、このフィカス取って
 貰えますか?』


「あ、はい!すぐ伺います!」


呼ばれた気がしつつも、お客様が待って
いる為頭を下げると酒向さんに
背を向けた
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