王太子に婚約破棄された地味令嬢ですが、病める時も健やかなる時も騎士団長から愛されるなんて聞いていません!
「あとは婚約指輪をこの石で」
 スティーブンが胸元から取り出したのはカット済みのダイヤモンド。
 あの輝きは父の領地のベテラン職人ベースンさんしかカットできないビーナスアローカット!
 しかもあんなに大きな石!
「まぁぁ! こんなに大きくて輝きが素晴らしいものは初めてです!」
「あと、こちらの小さなダイヤモンドでこういうものを頼む」
 紙と一緒に差し出したダイヤモンドはとても小さい物が40〜50個?
 あんなに小さい物をたくさんどうするのだろうか?
「セリーナに似合うデザインで」
「かしこまりました!」
 目がお金になってしまった店長を横目にスティーブンはセリーナの腰に手を添える。
「疲れただろう? カフェで休憩しよう」
 破壊力満点な笑顔と流れるようなエスコートには慣れていない。
 セリーナは初めてのデートにドキドキが止まらなかった。
「私、カフェに来たことがないんです」
 6歳で王太子の婚約者になったセリーナは自由に街を歩くことも制限された。
 家と学園と王宮の送迎は馬車で常に護衛付き。
 学園の数少ない友人と街で買い物をすることは許されず、学園の休日は王太子妃教育ばかり。
 自由な時間はほとんどなかった。
「ココアが甘くてセリーナ好みだと思う」
「ど、どうして甘い飲み物が好きって」
「ずっと護衛をしていたから当然だ」
 疲れた日、紅茶にこっそり砂糖を入れていたのがバレている?
 侍女にしかバレていないと思ったのに!
 すぐに運ばれて来たココアはいい香り。
 こんな飲み物があったなんて知らなかった。
「甘くて美味しいです」
 セリーナが微笑むとスティーブンも「気に入ってよかった」と微笑み返してくれた。
 パン屋、鍛冶屋、靴屋、雑貨屋。
 初めて自分の足で歩いた街は見ているだけでとても楽しかった。
 野菜が道端で売られているなんて知らなかった。
 あんなに小さな子が手伝いをしているなんて知らなかった。
 夢中で街を見ていたセリーナはヒョイと抱き上げられ、広場のベンチに。
「ス、スティーブン様!?」
 スティーブンは跪き、セリーナの足に触れる。
 無言のまま靴を脱がされたセリーナは恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまった。
「痛くないか?」
「大丈夫です」
 街に夢中で気づいていなかったが、冷静に聞かれると少しヒリヒリしている気がする。
 でもこのくらいどうってことない。
「スティーブン様、街に連れてきてくださってありがとうございます」
「ではまた二人で来よう」
 今日はもう歩かない方がいいと抱え上げられ、セリーナは馬車へ。
 馬車はゆっくりと走り出し、公爵邸に向かった。
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